fc2ブログ

第14帖「澪標」の全文訳(19)

2024年2月22日(木) オンライン「紫の会・木曜クラス」(第43回・通算90回・№1)

会場クラス、第3月曜クラスに続き、今日の第4木曜クラスも
第14帖「澪標」を読み終えました。3回に分けて書きました
「澪標」の巻の第4ポイント、「六条御息所の死と娘斎宮の
処遇を源氏が考える」の場面の後半(44頁・12行目~51頁
・10行目)の最終回(48頁・12行目~51頁・10行目迄)となり
ます。
(頁・行数は、「新潮日本古典集成 源氏物語三」による)


源氏の君はこのことをお聞きになって、朱雀院からご意向が伝えられて
いるのに、そのお気持ちに背いて冷泉帝が横取りなさっては、恐れ多い
こととお思いになりますが、斎宮のご様子がたいそう愛らし気で、手放す
のはこれもまた残念で、藤壺にご相談なさったのでした。

「しかじかのことで思い悩んでおりますが、母の御息所は、とても重々しく
思慮深いお方でいらっしゃいましたのに、私のよからぬ好き心のせいで、
あってはならない浮名までも流し、私を恨めしい男だと思われたままに
なってしまったことを、実にお気の毒に思っております。この世では、その
恨みが解けないままお亡くなりになってしまいましたが、臨終の際に、この
斎宮の後見をご遺言なさいましたので、私を、後事を託せる者と予てより
聞き置いて、何事も心に残さず打ち明けようと、これまでの恨みを水に流し、
私を認めて下さった、と思いますにつけても、堪えきれず、たいして関わり
のない人のことでも、気の毒なことは放ってはおけないものでございますが、
なんとかして、お亡くなりになった後ではあっても、生前の恨みを忘れる程
のことをして差し上げたい、と、考えておりますが、帝におかれても、随分
大人らしくおなりにはなりましたが、まだ頑是ないお年頃でいらっしゃいます
ので、少し分別のある方がお側にいらしても良いのでは、と存じますが、
ご決定の程を」など源氏の君が申し上げなさると、「たいそうよくお考え下
さったことですね。院におかれましてもがっかりなさいますことは、本当に
恐れ多く、お気の毒ではありますが、御息所のご遺言を口実にして、素知
らぬ振りで帝に入内申し上げなさいませ。院は、今はもう、そのようなこと
には特にご執心でもなく、仏道修行がちでいらして、あなたが院に御息所
のご遺言だと申し上げるのを、それほど深くもお気にはなさるまいと存じ
ます」と、藤壺がお答えになったので、「それでは、あなた様に斎宮を帝の
妃としてお認め下さるお気持ちがおありならば、私は形ばかりのお口添え
をするということにいたしましょう。あれこれと十分に考え尽くしましたし、
ここまで打ち割って私の考えもそっくりお話いたしましたが、世間の人が
何と言うか、それが心配です」などと源氏の君は申し上げて、後日、藤壺
の言葉通り、知らぬふりをして、斎宮を二条院にお移し申し上げよう、と
お考えになっておりました。

紫の上にも、「こういうつもりです。お話し相手としてお過ごしなさるのに、
ちょうど良いお年頃のお二人でしょう。と、教えて差し上げなさると、紫の上
は嬉しいこととお思いになって、斎宮のお移りのことを準備なさるのでした。

藤壺は、兵部卿の宮が、姫君を早く入内させたいと、お世話に大騒ぎをして
おられるご様子なのを、源氏の君が、兵部卿の宮とはしっくりしない間柄で、
この件に対してどのような態度をお取りになるかと気を揉んでいらっしゃい
ました。

権中納言の姫君は弘徽殿の女御と申し上げます。太政大臣が養女として
物々しくお世話なさっております。帝もこの女御をよき遊び相手と思って
おられました。

「兵部卿の宮の中の君も同じお年頃なので、情けないままごと遊びのような
感じがいたしましょうから、大人びたお世話役が出来るのは、とてもうれしい
ことでございます」とおっしゃって、帝にもそのようなご意向を申し上げなさっ
ては、源氏の君が万事行き届かないことが無く、公事の補佐は言うまでも
なく、日々の帝に対するこまやかなお心遣いが、いかにも情愛深くお見えに
なるのを、藤壺は頼りになることとお思いになって、いつも病がちでいらっ
しゃるため、宮中に参内などなさっても、気楽に帝のお側に居られることも
難しいので、少し大人びたご年長の、帝のお側でお世話役の出来る方が、
必要なことなのでありました。
                               
                              第14帖「澪標」(了)


スポンサーサイト



第14帖「澪標」の全文訳(18)

2024年2月19日(月) オンライン「紫の会・月曜クラス」(第43回・通算90回・№1)

今月の「紫の会」3クラスは、第14帖「澪標」最後の第4ポイント
「六条御息所の死と娘斎宮の処遇を源氏が考える」の場面の
後半を読みます(44頁・12行目~51頁・10行目)。その全文訳
を、3回に分けて書きますが、今日はその2回目です(47頁・
13行目~48頁・11行目迄)。話の内容によって区切るため、
今回の全文訳は、とても短くなっております。
(頁・行数は、「新潮日本古典集成 源氏物語三」による)


斎宮にお仕えする女房たちは、身分の高い者も低い者も大勢
おりました。でも源氏の君が、「たとえ乳母たちであっても、勝手
なことをしてはならぬぞ」と、父親代わりとしておっしゃると、その
ご様子が気が引けるほどご立派なので、「不都合なことが源氏
の君のお耳に入るようなことはするまい」、と、斎宮にお仕えして
いる者たちは、言いもし、思いもし、ほんのちょっとした懸想も
取り持つようなことはしませんでした。

朱雀院も、あの伊勢下向の日の、大極殿での荘厳な発遣の儀
の折に、不吉な予感を抱かせるほど美しく見えなさった斎宮の
ご容貌を、忘れ難く心に留めておいでだったので、「院参なさっ
て、斎院など、私の妹の女宮たちがいらっしゃるのと同じように、
お側にいらして下さい」と、生前の御息所にもお申し入れをなさ
いました。けれども、御息所は、れっきとしたお妃方がお仕えして
おられる中に、多くの後見も持たない状態ではいかがなもので
あろうか、とご心配なさり、また朱雀院はたいそうご病気がちで
あるのも恐ろしく、院のご逝去といったことで、自分と同じような
物思いを加えることになるのではないか、と遠慮しておられたの
ですが、御息所亡き今、ましてや誰が斎宮の後見を務められよう
か、と、女房たちは思っておりましたが、院からは懇ろにお申し越し
があったのでした。


第14帖「澪標」の全文訳(17)

2024年2月12日(月) 溝の口「紫の会」(第75回・№1)

先月の「全文訳・澪標(14)」のところで、「来月は余談は
後回しにして、何はさて置き、「澪標」の巻の読了を最優先
します。こうして宣言しておくと、実行できそうですので」と
書きましたが、ハイ、実行しました。多少は横道に逸れる
話もしましたが、ちょうど時間内で第14帖「澪標」を読み終え
ることが出来ました。

「澪標」の最後は、第4ポイント「六条御息所の死と娘斎宮の
処遇を源氏が考える」場面の後半となります(44頁・12行目
~51頁・10行目)。今月は、その全文訳を、3回に分けて書き
ますので、今日はその1回目、44頁・12行目~47頁・12行目
迄となります。
(頁・行数は、「新潮日本古典集成 源氏物語三」による)


雪や霙が降り荒れる日、どんなにか斎宮のご様子は儚げで物思い
に耽っておられることだろう、とご想像なさって、源氏の君はお使いを
差し向けなさいました。
「悲しみに搔き暮れているような只今の空をどのようにご覧になって
おられましょうか
 降り乱れひまなき空に亡き人の天翔るらむ宿ぞかなしき(雪、霙が
 降り乱れ、止む間もない空を、亡き母君の魂がお邸の上の大空を
 翔っておられるであろうと悲しく思われます)」
と、薄縹色の紙で、くすんだ色のものにお書きになっておりました。
うら若い斎宮のお目を惹くように丹精込めて美しくお書きになった
のは、実に目も眩むほどでありました。

斎宮はたいそうお返事をしづらいご様子でしたが、何人かの女房が、
「代筆では、とても失礼に当たります」と、きつく申し上げるので、
薄鈍色の紙で、とても香ばしく優美に香を薫きしめたものにお書きに
なった斎宮のお返事は、墨の濃淡などが美しく紛らわせてあって、
「消えがてにふるぞ悲しきかきくらしわが身それとも思ほえぬ世に」
(消えることも難しくて日を送っているのが悲しうございます。涙に
くれてわが身がわが身とも思えないこの世に)
と、遠慮がちな書きぶりが、たいそうおっとりとしていて、筆跡は達筆
というわけではありませんが、可愛らし気で上品な書風と見受けられ
ました。

斎宮が伊勢に下向された頃から、ただでは済まされないと思って
おられたのに、今は始終心に掛けてどのようにも言い寄ることが
きっと出来そうだ、とお思いになる一方で、いつものように思い直し
て、それはお気の毒な事であろうよ。亡き御息所が、とても心配そう
に気にしておられたことを、御息所が自分をそのようにご覧になる
のは無理のない事だけれど、世間の人も、同じような邪推をするに
違いないから、それをひっくり返して、下心なくお世話申し上げよう、
帝が今少し世間のことがおわかりになるお歳になられたら、斎宮を
入内させ申して、自分には年頃の娘もいないことだし、大切にお世話
しよう、とお考えになるのでした。
 
源氏の君はこまごまと懇ろにお便りをなさって、しかるべきことがある
折々は、ご自身でお訪ねにもなっておられました。「勿体ないことです
が、私を亡き母君の代わりとお考え下さって、気の置けないお付き合い
を頂けるのでしたら、満足に思えることでしょう」などと、源氏の君は
おっしゃいますが、斎宮はむやみに恥ずかしがられる内気なお人柄で、
ほんの少しでもお声などをお聞かせするのは、全くもって思いも寄ら
ないとんでもないことだと、お思いなので、女房たちもお取りなしに手を
焼いて、こうした斎宮のご性分を皆で嘆いておりました。

女別当、内侍などという女房や、またある者は同じ皇族の血筋を引いて
いる者などで、たしなみのある女房たちが多いことであろう、今自分が
秘かに考えている入内に際して、他の女御に引けをお取りになることは
あるまい、なんとかしてはっきりとお顔を見たいものだ、とお思いになる
のも、安心できる親心とはちょっと違っていたのではないでしょうか。

ご自身でも自分のお気持ちをお決めになり難いので、斎宮を娘分として
入内させるお積りも、誰にもおっしゃることはありませんでした。七日毎の
法要などもお世話も、格別にさせなさるので、世にも稀なご厚意を、斎宮
のお側の人々も喜び合っておりました。
 
空しく過ぎる月日につけて、斎宮はいっそう寂しく、心細さばかりが増さる
のに、お仕えする人々も、次第にお暇を取って散り散りになって行きなど
して、下京極の辺りなので、人家も少なく、山寺の鐘の音が聞こえて来る
につけても、声を上げて泣きがちに日を送っておられました。同じ母娘と
申し上げる中でも、片時も母君の傍らをお離れになることが無く、それに
慣れてしまっておられて、斎宮に母親が付き添って伊勢に下りなさるのは、
前例のないことでありましたが、無理に母君をお誘いなさったお気持ち
なので、死出の道にはお供出来なかったことを、涙の乾く間とて無く、
お嘆きになっているのでした。


第14帖「澪標」の全文訳(16)

2024年1月25日(木) オンライン「紫の会・木曜クラス」(第42回・通算89回・№1)

今月の「紫の会」は、3クラス共、第14帖「澪標」の第4のポイント、
「六条御息所の死と娘斎宮の処遇を源氏が考える」の前半部分
を読みました。(39頁・2行目~44頁・11行目)。全文訳は3回に
分けて書きましたので、今回が最後となります(43頁・11行目~
44頁・11行目)。区切りの都合上、3回目の今日は短いです。
1回目は(⇒こちらから)。2回目は(⇒こちらから)。
(頁・行数は、「新潮日本古典集成 源氏物語三」による)


七日、八日の後に、御息所はお亡くなりになりました。源氏の君が
どうしようもなくお思いになるにつけ、世の無常も感じられ、何となく
心細く思われて、宮中へも参内なさらず、ご葬送の事などについて
ご指示なさるのでした。源氏の君の他に、頼れる人もおいでになら
なかったのです。元の斎宮寮の役人などで、以前よりお出入りして
いる者が、何とか事を取り仕切りました。

源氏の君ご自身もご弔問になりました。斎宮にご挨拶をお伝えに
なります。斎宮は、「何の分別もつかない状態で取り乱しておりま
して」と、女別当を通してお返事になりました。源氏の君は「私から
母君に申し上げ、また母君もご遺言なさったこともございますので、
今は気の置けない相談相手と思って下されば、嬉しく存じます」と
おっしゃり、女房たちを呼び出されて、ご用をあれこれと仰せになり
ました。とても頼もしい感じで、数年来の素っ気ないお扱いも、これ
からは取り返せそうに見えるのでした。御息所のご葬儀はたいそう
盛大で、源氏の君の家来衆を数知れずご奉仕させなさいました。

源氏の君はしみじみと物思いに耽りながら、ご精進なさって、御簾
を垂れこめて僧に勤行をおさせになっておりました。斎宮には、常
にお見舞いのお便りを差し上げなさいます。斎宮は次第にお心が
落ち着きなさってからは、ご自身でお返事などを申し上げなさいま
した。直接お返事を差し上げるのは、斎宮にとっては気恥ずかしく
感じられましたが、乳母などが、「代筆では恐れ多いことです」と、
お勧め申すのでした。


第14帖「澪標」の全文訳(15)

2024年1月15日(月) オンライン「紫の会・月曜クラス」(第42回・通算89回・№1)

今月の「紫の会」は会場クラスもオンラインクラスも、第14帖「澪標」
の第4ポイント、「六条御息所の死と娘斎宮の処遇を源氏が考える」
場面の前半部分です(39頁・2行目~44頁・11行目)。全文訳は3回
に分けて書きますが、今日はその2回目、40頁・9行目~43頁・10行目
迄となります。1回目は(⇒こちらから)。
(頁・行数は、「新潮日本古典集成 源氏物語三」による)


ここまでお心にかけて下さっていたのを、御息所もすべてがしみじみと
胸に迫る思いがなさって、斎宮のことを源氏の君にご依頼なさいます。
「斎宮が一人であとにお残りになりますのを、必ず、何かにつけて人数
に入れてご処遇下さいませ。他に世話を頼める人もなく、この上もなく
気の毒な有様でございます。何の力にもなれない私ですが、いま暫くは
生き延びようかとのんびりと考えていた間は、斎宮が何かにつけ分別が
おつきになるまで、お世話しようと思っておりました」と言いながらも、
息も絶え絶えにお泣きになります。

源氏の君が、「そのようなお言葉がなくても、斎宮のことを心におかけ
申さぬはずもございませんのに、ましてやこのようなご依頼を戴いた上
は、私が思いつく限りは何ごとも後見して差し上げようと存じます。
斎宮のことについては、決してご心配申されますな」などとおっしゃると、
御息所は、「それがとても難しいことなのです。本当に頼りになる父親
など後を任せられる人がある場合ですら、母親に先立たれた娘は、
とても可哀想なものでございましょう。ましてや親兄弟でもないあなたが、
娘を恋人のようなお扱いをなさったなら、面白くないことも起こったりして、
斎宮が他の方に憎まれなどなさることもありましょう。嫌な気の廻しよう
ですけれども、どうぞ決してそのような色めいた事はお考えになりませぬ
ように。つらい我が身に引き比べてみましても、女というものは、不本意
なことで、物思いを重ねるものでございますから、斎宮にはどうかそうした
事には縁のない境遇でいらして頂きたいと思っているのです」とおっしゃる
ので、源氏の君は、「バツの悪いことをおっしゃるものだな」とお思いに
なりますが、「この数年の間に、何事にも分別がつくようになりましたのに、
昔の色恋を好む気持ちが残っているかのようにおっしゃるのも不本意です。
まあ、いいでしょう。自然とお分かり頂けましょうから」と言って、外は暗く
なり、室内は大殿油の灯りがほのかに物の隙間から見えるので、もしや
斎宮の姿を見ることが出来るかもしれない、とお思いになって、そっと
几帳のほころびからご覧になると、ほの暗い火影に、髪もたいそう美し気
にすっきりと切り揃えて、脇息にもたれかかっておられる御息所のお姿は、
絵に描いたような様子で、とてもしみじみと感じられました。

御帳台の東側に寄り添って横になっておられるのが、斎宮でありましょう。
御几帳が無造作に押しやられているその隙間から、目を凝らして見通し
なさると、頬杖をついて、たいそう物悲しいと思っておられるご様子です。
少ししか見えませんが、とても可愛気のある方のように見えました。髪の
掛かり具合や、頭の形、全体の雰囲気が上品で気高いものの、小柄で
魅力的なご様子がはっきりとお見えになるので、気になって心惹かれる
けれど、御息所がああまでおっしゃったのに、と、思い直されるのでした。

「とてもつらくなってまいりました。見苦しく失礼でございますので、早く
お引き取り下さいませ」と言って、御息所は女房に介助されて横になられ
ました。「私がお側近くに伺った甲斐があって、いくらかご気分が良くなら
れたのなら、嬉しく存じますのに、おいたわしいことです。どんなお具合
ですか」と言って、源氏の君が几帳の中をお覗きになる様子なので、
御息所は、「とても酷い姿でおります。体調を崩して、ちょうどこのように
最期かと思える折にお出でくださいましたのは、前世からの契りも浅くは
ないと思われます。気になっておりましたことを、少しでもお話出来ました
ので、きっとお心にかけてくださることと、心強うございます」と申し上げ
なさいます。

源氏の君は、「このようなご遺言を承るべき方々と同列にお考え下さった
のも、ひとしお感無量です。亡き桐壺院のお子様方は大勢おいでになり
ますが、私を親しく思ってくださる方もほとんどございません。ですが、
父院が斎宮をご自身の皇女たちと同じようにお考えでしたので、私もその
つもりで、兄妹としてお頼りいたしましょう。どうにか一人前と言える歳に
なりながら、私には養育する姫君もおりませんので、物足りなく思って
いますから」などと申し上げて、お帰りになりました。

その後はお見舞いを前よりも多く、頻繁に申し上げなさるのでした。


訪問者カウンター