fc2ブログ

重要な伏線となる「絵日記」

2023年6月12日(月) 溝の口「紫の会」(第68回)

鬱陶しい梅雨空の日が続き、今日も雨が降ったり止んだりの
一日でしたが、溝の口迄の行き帰りは、運よく傘を使うことなく
済みました。

「紫の会」の会場クラスは、予定通り、7月からオンラインクラス
と足並みが揃うことになりました。本当は「明石」の巻を読み終
えた所でそうしたかったのですが、来月のもう1回分が残って
しまいましたので、次の第14帖「澪標」の講読は、8月からに
なります。

源氏は明石の入道の娘と結ばれたものの、離れ離れになって
いる紫の上に対する後ろめたさから、さほど頻繁にお通いに
なるわけでもありませんでした。明石でこのようなことになった
事実を、自ら手紙で告白した源氏に、紫の上からは、嫉妬を
ほのめかしながらも、鷹揚に応じた返事が届きました。これが
源氏にとっては一番こたえるものだったのでしょうね、その後、
ますます入道の娘の許への足は遠のきがちとなりました。

入道の娘への愛おしさも増してはいるものの、源氏は独り寝の
夜が多くなり、そんな無聊の慰めに、「絵をさまざまかき集めて、
思ふことどもを書きつけ、返りこと聞くべきさまにしなしたまへり」
(絵をあれこれと沢山お描きになって、それに心の内をあれこれ
と書き添え、紫の上からの返事が聞けるような体裁になさいました)
と、絵日記を書いて紫の上の許に送り続けたのでした。紫の上
からの返事が聞ける体裁、というのは、歌を主とした形だったと
思われます。

それらの絵は「見む人の心にしみぬべきもののさまなり」(見る
人の心に沁み入るに違いない出来栄えでした)とあって、源氏が
須磨・明石で素晴らしい絵を描き残したことが記されます。

これが4帖先の第17帖「絵合」で、源氏の覇権に向けて大きな役割
を果たすことになりますので、重要な伏線の一つと言えましょう。

「若紫」の巻で、明石の入道父娘のことが語られていたり、「賢木」
の巻で、朱雀帝が斎宮を見初めていたり、その後の物語の伏線と
なっている場面は処々に見られ、作者がいかに壮大な構想のもと
に執筆していたかを窺い知ることができるのです。


国宝「源氏物語絵巻」宿木・第三段

2023年6月9日(金) 溝の口「源氏物語を読む会」(第169回)

昨日、関東も梅雨入りしました。これからしばらくは鬱陶しい日が
続きますね。

4月から、オンラインクラスが月遅れの形で、第2金曜日、第4月曜日
と同じ箇所を読むようになったので、今日の記事は、一昨日の
オンラインクラスで紹介した所(⇒こちらから)に続く場面となります。

国宝「源氏物語絵巻」宿木・第三段に描かれている有名な場面です。

ご自分が浮気性なので、薫と中の君の仲は何でもないのだろう、と
思いつつも、ともすれば疑念が湧いて来る匂宮でした。

秋風に揺れる庭の植え込みの薄を見ながら、その疑惑を匂宮が
歌に詠まれます。

「穂にいでぬもの思ふらししのすすき招くたもとの露しげくして」
(あなたは表面には出さず、密かに物思いをしておられるよう
ですね。穂の出きらない篠薄の手招きする袂が露にぐっしょりと
濡れているように、涙で袂を濡らしておいでなのでしょう)と。

そう言いながらも、中の君を慰めるべく、匂宮は琵琶を奏でます。

ちょっと長くなりますが、国宝「源氏物語絵巻」宿木・第三段は、
細やかにこの場面を描き出していますので、引用しておきたいと
思います。

「なつかしきほどの御衣どもに、直衣ばかり着たまひて、琵琶を弾き
ゐたまへり。黄鐘調の掻き合はせを、いとあはれに弾きなしたまへば、
女君も心に入りたまへることにて、もの怨じもえし果てたまはず、小さき
御几帳のつまより、脇息に寄りかかりて、ほのかにさし出でたまへる、
いと見まほしくらうたげなり」(匂宮は、着馴れた下着の上に、指貫は
履かず、直衣だけをお召しになって、琵琶をお弾きになっておられます。
黄鐘調の掻き合わせを、とてもしみじみとした感じにお弾きになるので、
中の君も琵琶には興味をお持ちのこととて、いつまでも怨んでばかりは
おれず、小さな几帳の端から、脇息に寄りかかって、そっと顔を覗かせて
おられるのが、もっとよく見たいと思われる愛らしさでした)

匂宮の歌に、中の君が返歌をします。
 
「秋果つる野べのけしきもしのすすきほのめく風につけてこそ知れ」
(秋の果ててしまった野辺の景色も、そよめく風から篠薄が感じ取るように、
私に飽きてしまわれたあなたのお気持ちは、何気ない素振りでわかります)

そう言って涙ぐんてしまうのがきまり悪く、扇で顔を隠し紛らわしている姿が
可憐でたまらなく、匂宮は「かかるにこそ人もえ思ひ放たざらめ」(この可愛
らしさだからこそ、薫も放っておけないのであろう)と、どうしても疑惑が強く
持たれて、恨めしくお思いなのでした。

    国宝源氏物語絵巻・宿木三段
      国宝「源氏物語絵巻」宿木第三段(徳川美術館蔵)

現存する国宝・「源氏物語絵巻」の中で、私が一番心惹かれる絵は、
先月(5/2)の高座渋谷クラスで取り上げた、紫の上の最期を描いた
「御法段」です(⇒こちらから)。次がこの「宿木・第三段」です。屋内
からと屋外からの違いはありますが、二つの絵に描かれている場所
は、奇しくも同じ「二条院の西の対」です。「御法」から21年の月日が
流れています。

 

消えない匂宮の疑念

2023年6月7日(水) 溝の口「オンライン源氏の会」(第35回・通算176回)

オンライン「源氏の会」は、会場クラス(第2金曜日と第4月曜日)
の5月と同じ個所を読みました。「宇治十帖」で最も長い第49帖
「宿木」も、ようやく終盤に差し掛かってきました。

中の君への思いを断ち切れぬまま宇治を訪れた薫は、阿闍梨に
八の宮邸の寝殿を解体して山寺に御堂として移築する相談をし、
弁の尼から浮舟の素性を聞きだしました。一夜明けて、紅葉した
蔦を持ち帰り、手紙を添えて中の君の許へと届けさせました。

薫からの使者がやって来たのは、ちょうど匂宮が中の君の許へ
とお出でになっている時でした。中の君は手紙に自分への懸想
の言葉などが書かれていたら困けれど、匂宮がいらっしゃるから
といって隠すのはわざとらしいし、と思い、匂宮が開けてご覧に
なるのに任せるのでした。

手紙は寝殿を御堂にする件に関して、許可を求める事務的な
内容だったので、中の君もほっとします。薫は、その辺りは実父・
柏木のようなへまをしません(状況が異なってはいますが)。

でも、匂宮は「よくもつれなく書きたまへる文かな。まろありとぞ
聞きつらむ」(よくもまあ、さり気なくお書きになった手紙ですね。
私がこちらに居ることを聞いての上のことでしょう)と、嫌味を
おっしゃいます。作者も草子地で「すこしは、げにさやありつらむ」
(幾分、匂宮の推測も当たっていたことでしょう)と、薫を皮肉って
います。

匂宮に促されて、返事を書く中の君。こちらも極めて事務的です。
それを見て匂宮は、「こんなふうに二人は咎め立てすることもない
間柄なのだろう」と思うものの、「わが御心ならひにただならじと
おぼすが、やすからぬなるべし」(ご自分が浮気性なだけに、
心中おだやかならむものがおありなのであろう)と、今度は匂宮
を草子地が皮肉っています。

匂宮が薫にコンプレックスを抱く必要は何もないはずなのです。
のちの浮舟のことを考えても、女性が心惹かれるのは匂宮の
ほうです。それでも、何事につけても優等生な薫に、匂宮は
コンプレックスを抱き続けています。「薫に負けたくない」という
意識が、中の君や浮舟への愛を深める要因の一つとなって
いるのかもしれませんね。

過ぎ去った29年の歳月

2023年6月日6(火) 高座渋谷「源氏物語に親しむ会」(通算170回 統合120回)

関東も今週の後半には梅雨入りとなりそうな気配です。

高座渋谷のクラスは、今回で第40帖「御法」を読み終え、
光源氏の物語(第二部迄)は、余すところ第41帖「幻」だけ
となりました。

最愛の妻・紫の上に先立たれ、葬送の場へも人の手を
借りなければ出向けないほどに、源氏は茫然自失の状態
でした。

紫の上が息を引き取ったのは8月14日の夜が明けた頃。
葵の上も、葬送が8月の20日過ぎでしたから、紫の上と
ほぼ同じ頃ですが、その間に29年の歳月が流れています。

源氏は、葵の上を荼毘に付した際の自分を思い出します。
「かれはなほもののおぼえけるにや、月の顔明らかに
おぼえし」(あの時はまだしっかりとしていたのか、有明の
月がはっきりと記憶に残っていた)と。そして、「のぼりぬる
煙はそれとわかねどもなべて雲居のあはれなるかな」
(大空に立ち上った火葬の煙は雲と混ざり合い、どれだと
見分けることもできないが、空一面がしみじみと感じられる
ことよ)と、歌を詠むことも出来ていました。

今の源氏は「ただくれまどひたまへり」(ただ悲しみに沈んで
取り乱しておられる)という有り様です。葵の上の葬送では、
葵の上の父・左大臣が、今の源氏と同じ様子で、「くれまどひ
たまへる」と、全く同じ表現が使われていました。

当時22歳の源氏は、そうした左大臣を、「ことわりにいみじ」
(ごもっともだとおいたわしく)ご覧になっていたのでした。

葵の上と紫の上では、共に過ごした年月も、愛情の深さも
異なるので、一概には言い切れないと思いますが、そこに
流れた歳月の中に源氏の老いを感じ、「あはれ」をもよおす
のです。これは私自身が老いたせいかもしれません。

「葵」のみならす、「野分」、「少女」、「胡蝶」等の巻々での
紫の上の姿を、夕霧や秋好中宮を通して読者にも追想させ
ながら、「御法」の巻は悲しみに包まれたまま幕を閉じます。

最後は「中宮などもおぼし忘るる時の間なく、恋ひきこえたまふ」
(明石中宮なども、亡き紫の上を片時もお忘れにならず、恋慕い
申し上げなさっている)という一文となっています。三歳の時から
養女として手塩にかけて育て上げた中宮の思いが映し出される
ことで、紫の上の救いとなっている気もする終わり方です。


『神作家 紫式部のありえない日々』

2023年6月2日(金)

台風2号の影響で前線の動きが活発になり、今日は朝から
大雨の一日となりました。皆さまお住まいの地域に被害は
ございませんか?

実は昨日から今日にかけて、神戸への墓参と京都宇治の
『源氏物語』ゆかりの場所巡りを予定していたのですが、
大雨の予報が出て来たため、姉と相談して、一昨日新幹線
の指定席予約もキャンセルし(前日だったので、30%の払い
戻し手数料を取られましたが)、今回の旅行を断念しました。
でも、このお天気では中止にして正解でした。

日頃から、「1週間以上ブログを更新しなかったら何かあった
と思って」と、冗談めかして言っているものですから、次の
源氏講座まで更新しないでいると、本当に「何かあった」と
思われかねないので、旅行レポートも書けなくなった今、
この本(コミックですが)をご紹介しておきたいと思います。

NHKの「あさイチ」でこんな本が取り上げられていましたよ、
と嫁からLINEがあったのは1月20日のことでした。もう来年
の大河ドラマに向けて始動しているのだなぁと、早速図書館
にリクエストカードを持参したところ、「コミックのリクエストは
受け付けていません」とのこと。

それならAmazonで購入しようとサイトを開けたら、既に1巻は
売り切れ(さすがNHKの影響力は大きい!)。取り敢えず2巻
だけを買いました。

その後近くの書店に1巻を頼んでおこうと出向いたら、「現在
出版社に在庫が無いので予約を承ることは出来ません」と
言われ、う~ん、困ったな、やっぱり1巻から読みたいし・・・
と、パソコンで検索していたら、楽天ブックスに在庫ありで、
無事にgetしました。

著者はD・キッサン。この方のコミックは初めてです。言葉は
すべて今風のコメディ仕立て。紫式部のことも「34歳。陰キャ。
シングルマザー」と紹介されています。

1、2巻と読み終えての感想は、「アハハと笑いながら読んで
しまうけど、D・キッサンという人は、とても細かくこの時代の
歴史を勉強している人だなぁ」、といったところでしょうか。
来年の大河ドラマが始まる前に読んでおくのもいいかも、と
思います。

その大河ドラマ「光る君へ」が平安神宮でクランクインした、と
先日ネットのニュースに出ていました。平安神宮は、平安京の
朝堂院を再現して建てられていますので、このドラマのロケ地
としてはうってつけですね。

昨年2024年の大河ドラマとして発表された時にはまだまだ先、
と思っていましたが、あと半年余りで始まります。どんな展開に
なるのかしら?私の来年の楽しみの一つです。

   神作家紫式部のありえない日々
        現在発売になっている1巻と2巻です


訪問者カウンター