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第10帖「賢木」の全文訳(16)

2021年6月14日(月) オンライン「紫の会・月曜クラス」(第11回・通算58回・№1)

昨日の1,000記事目のブログにも書きましたが、予定通り1,001記事目は
この『源氏物語』の全文訳となりました。

今回は、166頁・1行目~170頁・12行目までを読みましたが、今日の
全文訳はその前半部分(166頁・1行目~168頁・9行目)です。後半は
5/24のほうで書きます。
(頁・行数は、「新潮日本古典集成 源氏物語二」による)


九月二十日の月が次第にさし昇って風情ある時刻なので、帝が「管弦の
遊びなどでもしてみたい折だね」とおっしゃいます。源氏の君は、「私は
これから中宮が今夜ご退出になるそうなので、そのお世話に参りましょう。
父院が御遺言なさったこともございますので、中宮には他にお世話申し
上げる人もおいでにならないようですから、東宮のご縁でお気の毒に
思われますので」と申し上げなさいます。帝が、「東宮を私の養子にする
ように、と、父院が御遺言なさったので、格別気にはかけていますが、
特に何かをして差し上げる必要もないようでして。東宮はお歳よりも
ご筆跡などが格段に優れていらっしゃるようです。このような異母弟の
東宮は、何事につけてはかばかしくない私の名誉になることです」と
おっしゃるので、源氏の君は、「総じて、東宮はなさることなどが、
とても聡明でしっかりしていらっしゃるようですが、まだたいそう幼くて」
など、そのご様子も申し上げなさって、退出なさると、弘徽殿の大后の
ご兄弟の藤大納言の子で、頭の弁という者が、時流に乗って、今を
時めく若人で、何の屈託もないのでありましょう、妹の麗景殿の女御の
ところに行く途中で、源氏の君が先払いをひそやかにするのに出会った
ので、しばらく立ち止まって、「白虹日を貫けり。太子畏ぢたり」と、とても
ゆっくりと口ずさんでいるのを、源氏の君は、ひどく顔を背けたい思いで
お聞きになりますが、どうしてそれを咎め立て出来ましょうか。弘徽殿の
大后のご意向は、たいそう恐ろしく、面倒なことになりそうな噂ばかり
聞こえて来る上に、こうした大后の近親の人々まで、態度に出して
あれこれと言っているようなので、わずらわしくお思いになりますが、
気にも留めない振りをしておられました。

藤壺のもとへといらして、「帝のもとにお伺いして、今まで夜を更かして
しまいました」と、申し上げなさいました。

月が明るく照っているので、昔はこのような折は、亡き桐壺院が管弦の
遊びを催されて、華やかなお扱いをしてくださったことなどを、藤壺が
思い出されるにつけ、同じ宮中でありながら、変ってしまったことが多く、
悲しいのでした。
「九重に霧や隔つる雲の上の月をはるかに思ひやるかな」(宮中には
幾重にも霧がかかって、私を隔てているのでしょうか。雲の上の月を
遥かにお偲びしていることですよ)
と、王命婦を取次にして、源氏の君に歌を贈られました。藤壺の御座所も
近いので、ご様子も、ほのかではあるけれど、なつかしく聞こえるので、
源氏の君は辛さも忘れて、先ず涙ぐまれたのでした。
「月かげは見し世の秋にかはらぬを隔つる霧のつらくもあるかな(月の光は
嘗ての秋と変わらないのに、それを隔てる霧が辛うございます)『霞も人の』
とか、昔もあったことなのでございましょうか」
などと、お返しになったのでした。藤壺は、東宮のことをいつまでも名残惜しく
思い申し上げなさって、様々なことを語り掛けなさいますが、東宮が深くも
心にお留めでないのを、たいそう気掛かりに思い申し上げておられました。
東宮はいつもはとても早くおやすみになるのですが、母君がお帰りになる
迄は起きていよう、と思っていらっしゃるのでしょう。藤壺がお帰りになる
のを、恨めしげにお思いになっておりますが、さすがに後を追ったり出来ずに
いらっしゃるのを、藤壺はいじらしいとご覧になっておりました。


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