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薫に対する評価

2022年8月12日(金) 溝の口「源氏物語を読む会」(第160回)

明日は台風8号が東海・関東を直撃するようですが、今はまだ「嵐の前の静けさ」
でしょうか、雨も小降りで、風も昼間よりずっと穏やかです。

先月より会場講座が再開したこのクラス、コロナの感染状況はまだまだ減少とは
言い難いのですが、休講にはならず、今月も予定通りに行われました。

8/3のオンラインクラスの時に、雑談で盛り上がり、あまり読み進められなかった
ので、今日は調整の意味もあり、『無名草子』に書かれている薫の評価をご紹介
しました。

『無名草子』は鎌倉初期に成立した日本最古の物語評論書で、作者は俊成卿女
(しゅんぜいきょうのむすめ)と伝えられています(むすめ、と呼ばれていますが、
実際には孫娘)。『大鏡』に倣って、83歳の老尼が登場し、若い女房たちの対話
形式で書き綴られています。

「薫大将、はじめより終りまで、さらでもと思ふふし一つ見えず、返す返すめでたき
人なんめり」(薫大将は、最初から最後まで、そうでなくても、と思える点が一つも
見当たらず、どう考えても素晴らしい人のようですね)という一文に始まる薫評です。

今の時代、優柔不断で、もう済んでしまった取り返しのつかないことを後悔ばかり
してくよくよ悩んでいる薫を、ここまで賛美する人はそんなにいない気がします。

さらに続く部分は、原文まで書くと長くなるので、現代語訳にして書きますが、
「薫は実際には源氏の子ではないけれど、源氏の子であってもおかしくなく、むしろ
何とも頼りない女三宮が母親というのが不思議です。紫の上腹というのなら納得
できますが。全ての物語の中で、ましてや現実の中で、今も昔もこれほど理想的な
お方はめったにいるものではありません」と、大絶賛しています。

ここで、この発言にちょっとツッコミが入ります。「でも、薫は親しみ易さや、女性に
対するまめやかな態度には劣っていた人ではありませんか?浮舟や中の君が、
匂宮よりも薫を軽く考えていたのは残念ですね」と。すかさず「それは薫に問題が
あるわけでありません。女側の色恋に心惹かれる状態なのが良くないせいですよ」
と、薫贔屓の女房は弁護に回ります。

本日の講読箇所で、匂宮との結婚生活に不安を抱く中の君が、マタニティブルーも
手伝ってか、父宮の三回忌を機に宇治へ帰りたいので連れて行って欲しい、と、
無茶なことを言い出します。薫は、それを宥めて、宇治の山荘を寺にする提案をし、
他に希望があればどのようにでもするので、自分を頼ってもらえればそれが本望だ、
と中の君に伝えます。

中の君に親身に寄り添い、道に外れそうなことをしようとすれば注意もしてくれ、
経済力もあって、なんでも頼ってくれ、という薫。しかも、ここでは中の君が匂宮に
あらぬ疑いをかけられないよう、長居をしない気遣いも見せています。

『無名草子』の作者も、薫のこのような気配りの行き届く人柄に魅力を感じていた
のかもしれませんね。


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コメント

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おはようございます
昨日は、生活時間帯は僅かな小雨程度でしたが、今日は早朝から雨が降っています
台風8号の上陸が心配ですね

さて、講読会は無事開催され、またライブの楽しさを味わうことが出来ました

相変わらず後悔ばかりの薫には呆れるばかりですが、先生の「無名草子」のお話はとても興味深くお聞きしました
薫という人物が、当時は仏教を信仰する人が多いためか、非常に高く評価されていること

今とは随分違うようです
確かに、稀に見る誠実な人柄です
ただ、優柔不断なところは大きな欠点だと思う思われますが、当時は思慮深いという美徳になるのですね

きっと大君に対しても、純潔を守り通した立派な女性ということになるのでしょう
先生がおっしゃったように「大君は自らの死によって、中の君を守り宮家の誇りを守った」という意味では、その通りだと思います
しかし余りにも頑なで、薫に惹かれている一面も少しは見せるべきだったと、俗っぽい私などには残念な人に見えてしまいます(笑)

時代が変わると、これほどまでに登場人物に対する感想が違ってくること
これも、千年生き続けている「源氏物語」の素晴らしさだと思いました

中の君は妊娠して、本来なら幸せなはずなのに、マリッジブルーに加えて、匂宮と六の君との結婚でまた不安な日々を送ることになるのが可哀想です

No title

夕鶴さま

コメントを有難うございます。コメント送信機能も回復したようで良かったです。

『源氏物語』の登場人物に対する評価は、時代時代によって、また読者一人ひとりによって、更には、一人の中でも若い時と年を重ねてからでは、異なって来るものだと思いますね。

また、同一の人間の考え方や行動も、捉え方によって長所とも短所ともなるのだと、薫をはじめ、登場人物を通して知ることができ、やはり『源氏物語』の奥の深さには圧倒されますね。夕鶴さまのおっしゃる「千年生き続けている」作品の重みを感じます。

会場で皆さまとご一緒できる時間が戻って来たことを大変嬉しく思っております。withコロナの中で、どのような感染対策が出来るか、この2年半で私たちも学んだことは多いですものね。それを生かしながら、続行出来ますよう願っています。

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No title

 『無名草紙』はまだ読んだことありませんが面白そうです。
 作者の俊成卿女というのも、なんだかキャッチボールぽくて、読まなきゃ・・・と思います(笑)。現代においても源氏物語の中で誰が好き?と尋ねると、年齢や性別で好ましいとされる人物はずいぶん違うと思いますね。
 平安後期以降の人々の価値観を感じるには『末法思想』と『本覚思想』がわからないとだめかと思うんですが、手強すぎて・・・・。

No title

まっちゃんさま

コメントを有難うございます。

『無名草子』は、少しだけ引いたところをご覧頂いてもおわかりになると思いますが、原文がとてもわかり易い文体で書かれていますので、『源氏物語』などと違って楽に読めます。短いですし。

そもそも『源氏物語』評を始めるきっかけとなる話題が、紫式部はなぜ法華経を『源氏物語』の中に全く引用していないのでしょうね、というのも、まっちゃんさまの言われるように、この時代になると、背景にある仏教思想への理解が必要なのかもしれませんね(私はそこまで理解できていませんが💦)。

俊成卿女が、あれこれと指摘しながら、必ずしも光源氏を良しとしていないのも、やはりそうした時代性も作用しているのでしょうか。お読みになりましたら、ぜひ読後感もお聞かせくださいませ。


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