fc2ブログ

第12帖「須磨」の全文訳(14)

2022年8月25日(木) オンライン「紫の会・木曜クラス」(第25回・通算72回・№1)

一昨日が二十四節気の「処暑」。さすがに猛暑日が鳴りを潜め、風の
中に秋が感じられるようになりました。まだまだ残暑厳しい日もありま
しょうが、季節は確実に移ろい始めていますね。

今月のオンライン「紫の会」は、232頁・1行目~237頁・11行目迄を
読みましたが、その前半部分の全文訳は8/15に書きましたので
(⇒こちらから)、今日は後半部分(235頁・3行目~237頁・11行目)
となります。(頁・行数は、「新潮日本古典集成 源氏物語二」による)


朧月夜は、世間の物笑いの種となり、たいそう萎れておられましたが、
右大臣がとてもかわいがっておられる姫君なので、熱心に弘徽殿の大后
や朱雀帝にお願いなさったので、尚侍というのは、必ずしも女御や御息所
のようなお立場ではなく、あくまで公的な官職だからとお考え直しになり、
また源氏の君が憎かったからこそ、右大臣や弘徽殿の大后は、朧月夜に
対して厳しい処置もなさったのですが、今は源氏の君も須磨へと退去なさ
ってしまわれたので、朧月夜は停止処分も解かれて、参内なさることに
なったにつけても、やはり心に沁み込んでいる源氏の君のことが恋しくて
たまらないのでした。

朧月夜は七月に参内なさいました。帝の朧月夜に対する寵愛の深さは今も
変わらないので、帝は人のそしりもお気になさらず、以前のようにお傍に
ずっと侍らせなさって、何かにつけて怨んだり、そうかと思うと、しみじみと
愛をお誓いになるのでした。帝はご様子も、ご容貌も、とても優雅でお綺麗
でいらっしゃいますが、源氏の君のことばかりを思い出されることの多い
朧月夜の心の内には恐れ多いことでありました。

管弦の遊びをなさる折に、帝が「あの人(源氏の君をいう)がいないのが
実に寂しくてならないね。どんなにか私以上にそう思っている人が多いこと
であろう。何事につけても、光が失せたように物足りない気がすることだよ」
とおっしゃって、「父院のご遺言に背いてしまったことよ。きっと罰を受ける
ことになろう」と涙ぐまれるので、朧月夜も涙をこらえ切れません。

「この世はこうして生きているにつけてもつまらないものだなぁと思い知るに
つれて、長くこの世に生きていたいとも思いません。でも、もしそうなったら、
あなたはどうお思いだろうか。程近い須磨との別れよりも悲しんでいただけ
まいと思うと、くやしいのです。生きているこの世で恋しい人と暮らさねば
意味がない、という古歌は、全く大したことのない人が詠んだ歌だと思うよ」
と、帝がたいそう優しいご様子で、物事を本当にしみじみと深くお思いに
なっておっしゃるにつけても、朧月夜はほろほろと涙がこぼれ出すので、
「それごらん、誰のために泣いているのかね」と、帝はおっしゃるのでした。

「あなたに今まで御子たちのいないのが物足りないことです。東宮を父院
がおっしゃったように、養子同然に大切に思ってはいるけれど、それは
それでいろいろと妨害も出てくるようなので、心苦しいことで」など、帝の
ご意向を無視して政治を取り仕切られる方がおられるので、まだお若くて
強いこともおっしゃれないため、帝は、源氏の君や東宮を気の毒だとお思い
になることも多いのでした。

須磨ではいよいよ物思いを募らせる秋風が吹き、海からは少し離れている
けれど、行平の中納言が「関吹き越ゆる」と詠んだという風に立つ海岸の
波が、夜毎に本当に真近に聞こえて、この上なく心に沁みるものは、この
ような所の秋でありました。

源氏の君の御前にはとても人が少なくて、皆寝静まっていますが、源氏の君
は一人目を覚まして、枕から頭をもたげて四方の激しい風音をお聞きになると、
波がただこの枕元に打ち寄せて来るような心地がして、涙がこぼれ落ちるとも
思わないのに、枕が浮くほどに落涙しておりました。琴の琴を少しお弾きになり
ましたが、我ながらもの寂しく聞こえるので、弾くのを途中でお止めになって、
 「恋ひわびて泣く音にまがふ浦波は思ふかたより風や吹くらむ」(恋しさに
 耐えかねて泣く声のように聞こえる浦波の音は、恋しく思う都のほうから 
 風が吹くからなのであろうか)
と、お歌いになると、人々も目覚めて、素晴らしいと思えるので、我慢できず、
何となく起き出しては、鼻をこっそりと一人また一人とかんでいるのでした。


スポンサーサイト



コメント

コメントの投稿

訪問者カウンター