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第12帖「須磨」の全文訳(20)

2022年11月24日(木) オンライン「紫の会・木曜クラス」(第28回・通算75回・№1)

オンライン「紫の会」は、第3月曜クラスも第4木曜クラスも、今月で
第12帖「須磨」を読み終えました。

講読箇所は、250頁・1行目~256頁・13行目迄ですが、話の切れ目
の都合上、11/21の前半部分(⇒こちらから)のほうが長くて、今日の
後半部分は、254頁・8行目~256頁・13行目迄と短くなっています。
(頁・行数は、「新潮日本古典集成 源氏物語二」による)


三月一日に巡って来た巳の日に、「今日こそ、悩み事がおありの方は、
禊をなさるべきです」と、知ったかぶりの人が申し上げるので、源氏の
君は、海辺の景色もご覧になりたくて、たいそう簡略に、軟障だけを
引き巡らして、この摂津の国へ京から通ってきている陰陽師を呼んで、
お祓いをさせなさいました。

舟に大きな人形を載せて流すのをご覧になるにつけても、我が身の
ように思われて、
「知らざりし大海の原に流れ来てひとかたにやはものは悲しき」(見も
知らぬ大海原に流れて来て一方ならぬ悲しい思いをしていることだ)
と独詠して座っておられるご様子は、海辺の晴れがましい場所で、
言いようもなくご立派にお見えでした。
 
海の面がうららかに凪ぎ渡って、果てしなくみえるところに、過去、未来
のことが思い続けられて、
「八百よろづ神もあはれと思ふらむ犯せる罪のそれとなければ」(八百万
の神々も、私を哀れとお思いのことだろう。これという犯した罪はないの
だから)
と、源氏の君がおっしゃると、急に風が吹き始め、空も真っ暗になりました。
お祓いもし終えないうちに、人々は大騒ぎとなりました。肱笠雨とかいう
俄雨が降って来て、とてもじっとしていられないので、皆帰ろうとする
けれど、傘を差す暇もありませんでした。俄雨だけでも思い掛けないこと
なのに、強風がすべての物を吹き散らし、未曽有の暴風雨となりました。

波がたいそう荒々しく立ち寄せて、人々は足も地に着かない有様でした。
海面は、夜着を張り詰めたように光り満ちて雷が鳴り、稲妻が光ります。
雷が落ちてくるような心地がして、やっとのことで源氏の君のお住まいに
辿り着いて、「こんな目に遭うのは初めてのことだ。風などは吹くにしても、
その兆しがあってのことであろうに。信じがたい珍しい出来事だ」と、動転
していますが、雷はなお止まずに響いて、雨脚が当たった所を突き通って
しまいそうなくらい、音を立てて落ちていました。こうしてこの世は滅びて
しまうのか、と、人々は心細く思っていますが、源氏の君は、静かに読経
をしておられました。

日が暮れると、雷は少し鳴り止んで、それでも風は、夜になっても吹いて
おりました。「これは多く立てた願の力でありましょう。もうしばらくあの調子
だったら、波にさらわれて、海に吞み込まれてしまったでしょう。津波という
ものに、たちまち人は命を落とすものだと聞いているが、まったくこんなこと
はまだ経験したことがなかった」と、人々は言い合っておりました。

明け方に、みんな休みました。源氏の君もうとうとしておられると、何者の
姿ともわからない人が現れて、「どうして海龍王さまよりお召しがあるのに
参上なさらないのか」と言って、手探りに捜しまわっている、と見ているうち
に、はっと目が覚めて、さては海龍王が、たいそうひどく美しいものを愛でる
ものなので、自分に目を付けたのだな」と、お思いになると、とても気味が
悪く、源氏の君はこの住まいを耐え難くお思いになったのでした。
                               
第十二帖「須磨」了


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