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第13帖「明石」の全文訳(5)

2023年2月20日(月) オンライン「紫の会・月曜クラス」(第31回・通算78回・№1)

今回は講読箇所がとても短かったので(274頁・4行目~276頁・12行目)、
全文訳も一度に載せてしまってもよいのですが、いつも通り前半と後半に
分けて、今日は前半部分(274頁・4行目~276頁・1行目)のみといたします。
後半部分は、第4木曜日(2/23)のほうで書きます。
(頁・行数は、「新潮日本古典集成 源氏物語二」による)

四月になりました。衣更えのご装束、御帳台の帷子などを、入道は趣向を
凝らして整えました。入道が何かにつけて熱心にお世話申し上げるのを、
源氏の君は、気の毒に、ここまでしなくても、とお思いになりますが、入道
の人柄が、あくまで誇り高く、気品があるので、大目に見ておられました。

京からも、次から次へとお見舞いのお便りがひっきりなしに届きます。
のどやかな夕月の夜に、海上が曇りなく見渡されるのも、住み慣れた京の
二条院の池の水かと、我知らずふと思われなさるにつけ、言いようもなく
恋しい気持ちは、何処へ、ということなく、彷徨い続ける心地がなさいますが、
ただ目の前に見えているのは、淡路島だったのです。「あはと遥かに」など
と口ずさみなさって、
 「あはと見る淡路の島のあはれさへ残るくまなく澄める夜の月」(あれは、
  と目の前に見える淡路島のしみじみとした物悲しい趣までも、残る隈なく
  照らし出す今宵の月であることよ)

久しく触れておられぬ琴の琴を、袋から取り出しなさって、それとなくかき
鳴らしなさる源氏の君のお姿を、見申し上げる供人たちも心打たれて、
しみじみと悲しい思いをしておりました。『広陵』という曲を、技を尽くして
一心不乱にお弾きになると、あの岡辺の家でも、琴の音色が松風の響きや
波の音と相俟って、そうした風情を解する若い女房は、身に染む思いで
聴いているようでした。聴いても何のことやらわかりそうにない、あちら
こちらの下賤な者たちも、気もそぞろになり、浜をうろうろして、風邪を引く
のでした。入道も我慢出来なくて、供養法を怠って、急ぎ参上いたしました。

「まったく捨て去った俗世のことも、改めて思い出しそうな琴の音色でござい
ます。来世で生まれたいと願っております極楽浄土の様子も、このようなの
ではないかと想像される今夜の風情でございます」と、感涙にむせびながら、
賞讃申し上げます。

源氏の君ご自身も、折々に催された宮中での管弦の遊びでの、あの人
この人の琴や笛の音、あるいは歌う声など、またその時々につけて、世の
賞讃の的となったご自身の様子、帝をはじめとして、多くの方々が自分に
かしづき、尊敬してくださったことなどを、そうした人々のことも、ご自身の
身の上も、源氏の君は思い出されて、夢のような気がなさるままに、かき
鳴らしなさる琴の琴の音色にも、深い悲しみの響きがございました。


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