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中の君にとっての最大の課題

2023年3月27日(月) 溝の口「湖月会」(第166回)

ここ数日雨模様の日が続きましたが、今日は青空こそ
見えないものの、雨の心配はなく過ごせました。明日も
関東だけがすっきりしないお天気のようです。桜の花が
満開になってから、どうもお花見日和に恵まれません。

第2金曜クラス同様、このクラスも第49帖「宿木」の後半
に入っています。

夕霧の六の君との結婚によって匂宮の夜離れが続き、
自分の置かれた立場の弱さを思い知らされた中の君は、
薫に直接話がしたいと手紙を送り、至近距離で、薫に
宇治行きを懇願しました。言うなれば、中の君のほうに
薫をつけ入らせる隙があった、ということになりますが、
実際薫に迫られ、それを回避していかねばならなくなった
時、中の君にとっては、夫の夜離れよりも更に辛い課題
を突き付けられる格好となりました。

これが全く面識のない相手なら、きっぱりと突き放すことも
出来るのですが、昔から身内でもないのに、親身に世話を
してもらって来た恩義は、中の君もしっかりと認識しています。
だからと言って、薫を受け入れているような応対をするのも
憚られ、「いかがはすべからむと、よろづに思ひ乱れたまふ」
(どうしたらよいものであろうかと、あれこれと思い乱れなさる)
のでした。

今の中の君には、相談できる人が誰もいないというのも、
辛さを増幅していました。若い気の利いた女房は、新参者
ばかりだし、昔から見知っている女房は、皆年老いていて、
こうした事情を語り合うには不向きでした。となると、恋しく
思い出されるのはいつも亡き大君なのですが、そもそも、
大君がご存命なら、薫が中の君を恋慕するようなことも
なかったはずなので、中の君には何とも悲しくやりきれない
思いが募っておりました。

ただ、この苦悩があって、一人で解決策を見つけ出さねば
ならない状況に置かれたからこそ、中の君は薫に浮舟の
存在を告げる決心がついたのだと思います。本来薫には
知られたくないはずの父親の秘密(認知しなかった隠し子
がいる)を告げざるを得なかった中の君の言動を正当化
するには、くどいまでの過程が必要で、「明石」の巻での
入道の登場のような神の力を借りた手ではない、読者が
現実的に感じられる手を用いるところまで、『源氏物語』
自体が深化していた証しではないでしょうか。


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