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第13帖「明石」の全文訳(10)

2023年4月27日(木) オンライン「紫の会・木曜クラス」(第33回・通算80回・№1)

今月のオンライン「紫の会」は、第13帖「明石」の285頁・9行目
~289頁・9行目まで)を読みました。前半部分は4/17のほうで
書きましたので(⇒こちらから)、今日の全文訳は、後半部分
(287頁・1行目~289頁・9行目)となります。
(頁・行数は、「新潮日本古典集成 源氏物語二」による)


明石では例によって、秋は浜風が殊更身に沁みるので、源氏の君は
独り寝も本当に侘しくて、入道にも折々話を持ち掛けなさいます。
「何とか目立たないようにして、娘をこちらに参らせよ」とおっしゃって、
ご自分がお出向きになるのはとんでもないことだとお考えですが、
娘のほうでもまた、決して源氏の君の許に出向くつもりはありません
でした。

「取るに足らない分際の田舎の女は、ほんの一時、都から下って来た
人の甘言に乗って、そのように軽々しく契りを結ぶこともしようが、
源氏の君は私のことなど人並みにも扱ってくださらないであろうから、
ひどい物思いの種を加えるだけのことになるのだろう。こんなに及びも
つかない高望みをしている両親も、今迄のように、まだ娘の結婚のこと
を具体的に考えずに済んでいた間は、当てにもならないことを当てに
して、将来に望みを抱いていたことであろうが、実際に源氏の君と結ば
れたなら、却って心配が尽きないことになるであろう」と思い、また、「ただ
この明石の浦に源氏の君がいらっしゃる間、こうしてお手紙の遣り取り
をするだけでも並々ではないことなのに、長年噂に聞くだけで、一体いつ
源氏の君のようなお方のご様子をちらりと拝見することがあろうかと遥か
に思い申し上げていたところ、こうして思いも掛けず明石にお住まいに
なることになって、面と向かってではないけれど、わずかに見申し上げ、
右に出る者がいない名手だと耳にしていたお琴の音も、風のまにまに
聴き、明け暮れのお暮らしぶりも身近に感じるようになり、ここまで人並み
にお扱いくださるのは、こうした海辺の賤しい者たちの中に落ちぶれて
しまった私になど、分に過ぎることなのだ」と思うと、ますます気後れが
して、全く源氏の君と結ばれるのは論外なのでした。

親たちは、長年の願いが叶うことになるはずだ、とは思うものの、軽はずみ
にも娘を源氏の君に差し出して、人並みにも扱っていただけなかった時
、どんな嘆きをすることになろうかと、娘の気持ちを思い遣ると、心配で
たまらず、「源氏の君がいくら立派なお方だと申しても、そんなことになった
ら、辛く、酷いことをなさると恨むことになろうよ、目に見えない仏や神を
当てにして、源氏の君のお気持ちも、娘の運命も考えに入れないで」などと、
立ち返って見て思い悩んでいるのでした。

源氏の君は、「この頃の波の音に乗せて、そなたの娘の奏でる琴の音が
聴きたいものだ。そうでなくては、この秋という季節の甲斐もなかろう」と、
常に入道におっしゃるのでした。

 入道はこっそりと吉日を見計らって、母君があれこれと心配するのに
耳も貸さず、家来たちなどにさえ知らせず、自分の一存で奔走して、
娘の部屋をまばゆいばかりに整えて、十三日の月が華やかに差し昇る頃
に、ただ「あたら夜の」(惜しむべき今宵の)と、源氏の君に申し上げました。

源氏の君は、風流ぶったものだなぁ、とお思いになりますが、直衣をお召し
になって身なりをお整えになり、夜更けを待ってお出でになりました。牛車
は入道がこの上なく立派に用意しましたが、窮屈だ、と源氏の君はお思い
になり、馬でお出かけになりました。惟光などだけをお供させなさいます。

岡辺の館は、海辺から少し遠く入った所にありました。道中も四方の海辺
の景色を見渡されて、いとしい人と一緒に眺めたい入江に映る月光をご覧
になるにつけても、源氏の君は先ず恋しい紫の上のことを思い出しなさると、
このまま馬に乗って通り過ぎ、京へと向かいたい気がなさるのでした。
 「秋の夜のつきげの駒よわが恋ふる雲居を翔れ時の間も見む」(秋の夜
  のつきげの馬よ、月という名を持っているなら、私が恋しく思う都へと、
  大空を翔けておくれ。束の間でもあの人の姿を見ようものを)
と、自然と独詠なさったのでした。


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