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第13帖「明石」の全文訳(13)

2023年6月19日(月) オンライン「紫の会・月曜クラス」(第35回・通算82回・№1)

今月のオンライン「紫の会」は、いよいよ源氏に京への召還の宣旨
が下った所から、出立前に入道の娘との最後の逢瀬を惜しむ所迄
を読みました(295頁・4行目~300頁・7行目)。今日の全文訳は、
その前半部分(295頁・4行目~297頁・9行目)です。後半部分は、
6/22(木)のほうで書きます。
(頁・行数は、「新潮日本古典集成 源氏物語二」による)


年が改まりました。帝のご病悩のことがあって、世の中では様々に
それについて取り沙汰されていました。朱雀帝の御子は、右大臣の
娘である承香殿の女御が男御子をお生みになっていましたが、2歳
におなりになったところで、まだとてもご幼少です。ここは東宮に譲位
なさることになります。その場合、新帝の後見をして政治を執り行う
べき人物を帝が思い巡らされると、この源氏の君がこうして不遇で
おられることは、とても惜しく不都合なことなので、遂に母・弘徽殿の
大后のご諫言にも背いて、源氏の君をご赦免になるという評定が
なされました。

去年から、弘徽殿の大后も物の怪にお悩みになり、様々な神仏の
お告げがしきりにあって、不穏である上に、帝はたいそうあれこれと
ご謹慎をなさった甲斐があってか、多少快方に向かっておられた御目
のご病気までもがこの頃悪化してこられて、何となく心細くお思いに
なったので、7月20日過ぎに、また重ねて源氏の君を京へ召還すると
いう宣旨が下ったのでした。

いつかはこうなることと思っていたけれど、この世の無常を考えるに
つけても、一体どうなってしまうのか、源氏の君はお嘆きになっており
ましたが、こうして急に帰京が決まったので、またこの明石の浦を、
これを最後と立ち去ることを思い嘆いておられると、明石の入道は、
当然のこととは思うものの、この話を聞くやいなや胸も塞がる気が
しますが、思い通りに源氏の君がお栄になってこそ、自分の願いも
叶うことになるのだ、と、思い直しておりました。

その頃は、源氏の君は途絶えることなく入道の娘の許にお通いに
なっておられました。6月頃から、娘には懐妊の兆候である悪阻の
様子が見られ、気分がすぐれませんでした。こうしてお別れせねば
ならない時なので、生憎にも源氏の君は愛情がお増しになるので
しょうか、入道の娘を以前よりもいとしくお思いになって、不思議にも
物思いの絶えることの無い身の上であることよ、と思い乱れておられ
ます。ましてや女の方は改めて言うまでも無く、悲しみにうち沈んで
いるのは本当に無理もないことでございました。

思い掛けず、須磨への悲しい旅立ちをなさいましたが、いつかは
きっと都へ帰ってくることが出来ようと、一方では希望を持って気持ち
を慰めておられました。この度はその時とは逆に嬉しい京への旅立ち
ではありますが、またこの明石の浦を訪れることがあろうか、とお考え
になると、しみじみとした思いがなさるのでした。

お仕えしている家来たちも、それぞれの身に応じて、帰京できることを
喜んでいました。京からもお迎えに人々が参上し、陽気にはしゃいで
おりますが、主の入道は涙に暮れたまま、月が替わり8月となりました。

仲秋のしみじみとした空の佇まいに、源氏の君は、どうして自分から
求めて、今も昔も、心の赴くままの恋の道にわが身を打ち捨ててしまう
のであろう、と、様々に思い乱れていらっしゃるのを、その事情がわか
っている家来たちは、「ああ困ったお方だ。またいつもの悪い御癖だ」と、
見申し上げては不快そうにしておりました。この幾月も、少しも人には
そのような素振りをお見せになることなく、時折、こっそりとお通いになる
程度の冷淡さだったのに、近頃はまたあいにくとご熱心なことで、却って
女の嘆きの種となるばかりだ、と突き合っているのでした。良清は、
源氏の君に入道の娘の存在を知らせることとなった北山での噂話の
ことなどを、他の家来たちがひそひそと話しているのを、面白くなく
思っていました。


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