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第13帖「明石」の全文訳(16)

2023年7月17日(月) オンライン「紫の会・月曜クラス」(第36回・通算83回・№1)

今月から、第2月曜日の会場クラスと、第3月曜日・第4木曜日の
オンライン2クラスが同じところを講読することになりましたので、
全文訳も3回に分けて記すことにしました。

第13帖「明石」の最後(300頁・8行目~309頁・1行目)を読みました
が、1回目の(300頁・8行目~304頁・10行目)の全文訳は、7/10
に書きました(⇒こちらから)。今日は2回目です(304頁4・11行目
~307頁・14行目まで)。残りは少ないのですが、7/27に書くことに
いたします。


源氏の君は、難波の方に渡ってお祓いをなさって、住吉明神にも
無事に帰京できることとなり、いろいろな願を立てたその御礼参り
を改めてする旨、使者を遣わして申し上げさせなさいました。急に
身辺が混み合って動きが取れず、ご自身はこの度はお参りになれ
ず、格別のご遊覧などもなくて、急ぎ京にお入りになりました。
 
二条院にお着きになって、都の人も、お供の人も、夢心地で再会し、
嬉し泣きも縁起でもないほど大騒ぎをしておりました。

紫の上も、生きていても甲斐もないと思い、何の未練もお持ちで
なかった命でしたが、生き永らえて再会が叶い、嬉しくお思いに
なったことでしょうよ。

紫の上はたいそう愛らし気に、大人びて容姿も整い、離れ離れに
なっていた間の物思いで、うるさいほど多かった御髪が、少し落ち
細ったのが、却ってとても素晴らしいのを、もうこれからはこうして
一緒に暮らせるのだと、ご安心なさるにつけては、またあの明石で
辛い思いをして別れてきた人の悲しんでいた様子が、心苦しく思い
遣られなさるのでした。やはりいつまでも、こうした恋の道において
お心の休まる時のないお方なのですね。

明石の入道の娘のことなども、紫の上にお話申し上げなさいました。
思い出しておられるご様子が並々ではなく見えるので、紫の上は
穏やかではない気持ちでご覧になっていたのでしょうか、さり気なく、
「身をば思はず」(私自身はどうなっても構わないのだけれど)など
と、ちらりと嫉妬をほのめかしておっしゃるのを、源氏の君は面白く
可愛いとお思いなのでした。

こうして逢っていてもいつまでも見飽きないと思われる紫の上の
ご様子を、どうして逢わずに長の年月を過ごせたことか、と信じら
れないような思いがなさるにつけ、今更ながら、あの頃の世情が
たいそう恨めしいことでした。

間もなく源氏の君は元の官職から昇進して、定員外の権大納言
になられました。源氏の君に連座して罷免された家来たちも、
しかるべき者たちは元の官職に復して世間に許されたのは、一旦
枯れた木が春に巡り合えた気がして、たいそう素晴らし気であり
ました。

朱雀帝からのお召しがあって、源氏の君は宮中に参内なさい
ました。帝の御前に控えておられるお姿は、いよいよご立派に
なられて、こんな素晴らしいお方が、どうしてあのような辺鄙な
田舎で何年もお過ごしになったのであろう、と、人々は見申し
上げておりました。女房たちの中で、桐壺院の御在位中から
お仕えしていて、老いぼれてしまった者たちは、源氏の君が
愛しくて、今更のように泣き騒いでお褒め申し上げております。

帝も、源氏の君に対して、気が引けるようなお気持ちまでなさ
って、お召し物なども念入りにお整えになって、お出ましになり
ました。帝は体調を崩されて、もう何日もお経ちになるので、
とてもお弱りになっておられましたが、昨日今日は、少し気分
も良いようにお感じになっていました。

お話をしみじみとなさって、夜になりました。八月十五夜の月が
美しく静かなので、帝は昔のことを少しずつ思い出しなさって、
涙をお流しになります。気も弱くなっておられるのでありましょう。
「管弦の遊びなどもせず、昔聞いたあなたの演奏なども聴かない
で、久しくなってしまったことよ」とおっしゃるので、
「わたつ海にしなえうらぶれ蛭の児の脚立たざりし年は経にけり」
(海辺に落ちぶれて、つらい思いで、三年を過ごして来たことです)
と申し上げなさると、帝はたいそうしみじみと顔向けできない
思いがなさって、
「宮柱めぐりあひける時しあれば別れし春のうらみ残すな」
(こうしてまた巡り会える時が来たのだから別れた春の恨みは
残さないでおくれ)
とても優雅な帝のご様子でありました。
 
桐壺院のために法華八講を行うべきことを、源氏の君は先ず
ご準備なさいます。東宮をご覧になると、すっかり成長なさって
おられ、再会を珍しく思ってお喜びになるのを、源氏の君は
この上なく愛しく見申し上げておられました。東宮は学問も
非常によく習得なさって、即位して天下をお治めになるのに
何の差し障りもないであろうと、ご立派にお見えになります。

藤壺にも、気持ちが少し落ち着いてからご対面になりましたが、
しみじみとしたお話があったことでしょうね。


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コメント

No title

帰京、皆との再会、返り咲き、そして参内という大変めでたい場面でありながら、しみじみとした情感もまた格別です。源氏は、人生の悲哀を味わい、人間の器が大きくなりました。また、その分、流謫に至るまでの重苦しい人間関係、明石での生活で得たしがらみ、それを引き受けなければならない紫上の悲しみが源氏の肩に伸しかかります。いよいよ中年期。政治的にも重みを増す源氏の人間の真価が問われ始めます。彼に引け目を負い続ける宿命を負った朱雀院のお言葉も、切なく、哀れに響きます。

No title

吹木 文音さま

コメントを有難うございます。

「紅葉賀」・「花宴」の源氏絶頂の青年期から、少しずつ下降して「須磨」・「明石」でどん底を味わいましたが、それがこれからの政界の第一人者としての人生を歩み始めるための糧となったと言えましょうね。

いよいよ『源氏物語』の次なるステージの開始です。28歳、当時はもう中年になっていますね。源氏は勿論のこと、彼を取り巻く人々(男性も女性も)の悲喜こもごもの人生模様が展開していきます。

読めば読むほどハマってしまう『源氏物語』の不思議な魅力、この先も共に楽しんでまいりましょう。

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