fc2ブログ

第14帖「澪標」の全文訳(2)

2023年8月24日(木) オンライン「紫の会・木曜クラス」(第37回・通算84回・№1)

8月は会場クラスが休講となったため、全文訳はオンラインクラス
のみで、こちらが、今月講読箇所(11頁・1行目~16頁・11行目)の
後半部分(14頁・3行目~16頁・11行目)となります。前半部分は
こちらから
(頁・行数は、「新潮日本古典集成 源氏物語三」による)


同じ2月の20日過ぎ、ご譲位があり、急な事だったので、弘徽殿の大后
は狼狽なさいました。朱雀院は、「もう帝位にはないので、何の栄えも
ない身ではありますが、ゆっくりとお目にかかれると思っております」と
言って、母・大后をお慰めになるのでした。

東宮には、承香殿の女御のお産みになった皇子がおつきになりました。
世の中は一新して、前代とは打って変わって華やかなことが多うござい
ました。

源氏の大納言は内大臣になられました。大臣の欠員がなかったので、
定員外としてお加わりになりました。そのまま摂政となられて、天下の
政治をおとりになるべきでしたが、「そのような繁忙な役職には力不足
です」と言って、致仕大臣(もとの左大臣)を摂政になさるべきであると、
お譲りになるのでした。

致仕大臣は、「病を理由に官職もご辞退申し上げたのに、いよいよ
老いぼれてしまって、賢政も出来ますまい」と、ご承諾なさいません。
「異国でも、事変が起こり世の中が乱れている時には、政界を退き、
深山に籠っていた人でさえ、太平の世になれば、白髪の身も恥じず、
天子にお仕えするのを、真の聖賢としたものです」と説き、病のため
に辞退なさった官職であっても、政情が変わってもう一度改めて出仕
なさるのに何の支障もあるまいと、公私共に決められました。そうした
前例もあったので、致仕大臣も断り切れず、太政大臣に就任なさい
ました。

お歳も63になっておられます。右大臣一派が権勢を振るい、面白く
なかったので、そのために隠居なさっておられたのですが、また昔の
ようにお華やぎになって、お子様方も、不遇な様子でいらっしゃいま
したが、皆出世なさいました。

とりわけ、宰相中将は、権中納言になられました。正妻の右大臣家の
四の君腹の姫君で12歳になっておられるお方を、入内させようと大切
にお育てになっておられました。あの「高砂」を歌った若君も元服させて、
思い通りのご繁栄ぶりです。権中納言には、ご夫人方にお子様が次々
に生まれ成長して賑やかなのを、源氏の君は羨ましくお思いになって
おられました。
 
太政大臣家の葵上腹の夕霧は、他の人よりも特に可愛らしくて、宮中
と東宮御所の殿上童をなさっています。葵上が亡くなられたのを嘆いて
こられた大宮や太政大臣は、夕霧の成長を見ると、改めて娘の早世が
惜しまれお嘆きになっておりました。けれども、葵上が亡くなられた後
でも、ただこの源氏の君のご威光で、万事結構な扱いをお受けになって、
長年不遇をかこっておられた跡形もないほどまでに、太政大臣家は
お栄えになりました。

源氏の君は、やはり昔と変わらないお心遣いで、太政大臣邸に事ある
ごとにお出向きになっては、夕霧の乳母たちや、その他の女房たちも、
源氏の君がご不在の間に出て行かなかった者に対しては、適当な機会
があるごとに、頼もしい身の上になれるようご配慮下さるので、幸せに
なれる人が多いようでございました。
 
二条院でも、同じように源氏の君の帰京を待ち申し上げていた女房を、
殊勝な者たちだとお思いになって、源氏の君は、長年の物思いが晴れ
るようにと、中将とか中務といった女房には、その身分身分に応じて
情けをお掛けになるので、お暇がなくて、他所の女君に通うこともなさ
いません。二条院の東にある、桐壺院からの遺産として相続なさった
邸宅を、この上なく立派に改築なさいます。花散里のような気の毒な
境遇の方々を、住まわせようと、お心積もりをなさって手入れをさせ
なさっているのでした。


スポンサーサイト



コメント

No title

着々と権勢を強める源氏の様子が描かれていますね。須磨・明石への流謫を経て、次第にしたたかになってゆく源氏の布石とでもいうのでしょうか。葵の上と必ずしも良好な夫婦関係ではなかったこと。子供が少ないこと。それらを上手に超越して、自分の力に変えていくのが読み取れます。(葵の上にまつわる人々との平らかな関係の構築、夕霧の健やかな成長の描写)。東の院構想も、源氏にとっては重要な意味を持ちますね。流謫時代が、源氏の内面に大きな影響を与えています。俗に言う「須磨がえり」は勿体ないですね。

No title

吹木 文音 さま

コメントを有難うございます。

「須磨・明石」での苦境の体験が、源氏を人間として、政治家として大きく成長させたと言えましょうね。

「澪標」は、おっしゃる通り、次のステップに向かって着実に布石を打っていく巻です。公では新帝となった冷泉帝の周りを味方で固め、私では二条の東院を改築して、家長としての立場を固めようとしています。そうした先に、源氏がどのような人生を歩むことになるのか、まさに「お楽しみはこれからだ!」ですよね。本当に「須磨返り」では勿体ないと思います。

コメントの投稿

訪問者カウンター