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第14帖「澪標」の全文訳(5)

2023年9月28日(木) オンライン「紫の会・木曜クラス」(第38回・通算85回・№1)

オンライン「紫の会」の2クラスは、今月は第14帖「澪標」の
16頁・12行目~22頁・6行目迄を読みましたが、今日は
その後半部分に当たる、20頁・9行目~22頁・6行目迄の
全文訳となります。前半部分は、全文訳の(3⇒こちらから
と(4⇒こちらから)をご覧下さい。
(頁・行数は、「新潮日本古典集成 源氏物語二」による)


宣旨の娘は、牛車で洛中は旅立って行きました。源氏の君は
腹心の家来を付き添わせなさって、他言無用と、きつく口止め
をなさって、お遣わしになりました。御佩刀や、しかるべき品々
などあれやこれやと窮屈なほどに、ご配慮の行き届かないこと
はありませんでした。宣旨の娘にも、乳母に対して例のないほど
の行き届いたお心遣いをお見せになりました。

明石の入道が、生まれた姫君を大切にお世話して慈しんでいる
であろう様子を想像するにつけても、思わず微笑まれることが
多く、また、しみじみといたわしくも、ただこの姫君のことが気に
かかられるのも、ご愛情が深いからこそでありましょう。

入道の娘へのお手紙にも、おろそかにお育てしてはならない、と
重ね重ねご注意がございました。
「いつしかも袖うちかけむをとめ子が世を経て撫づる岩のおひさき」
(一日も早く、私も自分の袖を掛けてみたいものだ。天女が長の
年月、羽衣の袖で撫でる岩の行く末が限りないものであるのを
願って)

宣旨の乳母一行は、摂津の国までは舟で行き、そこから先は馬で、
明石に急ぎ到着しました。

明石では入道が乳母の到着を待ち受けて、源氏の君のご配慮を
喜び、恐縮申し上げることがこの上もございません。京のほうを
向いて、拝み申し上げて、並々ならぬ源氏の君のお気持ちを思う
と、姫君のことがいよいよおいたわしく、空恐ろしいほどまでに
思われるのでした。赤児の姫君の本当に不吉に感じられるほど
可愛くていらっしゃるのはこの上ありません。

乳母は、なるほど源氏の君が、勿体ないような思し召しで、この
姫君を大切にお育て申し上げようとお考えになったのは、もっとも
なことだった、と拝見するにつけて、明石のような田舎に下って
来て、夢を見ているような気持がしていた嘆きも、消えました。
姫君がとても可愛らしく、愛しく思われて、乳母は姫君をお世話
申し上げるのでした。
 
入道の娘も、あれから幾月も物思いに沈むばかりで、いっそう
心身ともに弱って、生きる気力もなかったのですが、こうした
源氏の君のご配慮で、少し物思いも慰められて、頭を枕から
起こして、御使いにもまたとない程の心遣いの限りを尽くします。
御使いが、すぐに帰参したいと帰りを急ぎ、迷惑がるので、
入道の娘は、思うことのあれこれを少しお書きして、
「ひとりして撫づるは袖のほどなきに覆ふばかりの蔭をしぞ待つ」
(私一人で姫君をお育てするには袖が狭く力が及びません。
あなたの大きなご庇護をお待ちしております)
と、申し上げました。源氏の君は不思議なほど姫君のことが
気にかかり、早く見たいとお思いになっておりました。


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