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常陸の介の強味と弱味

2023年12月6日(水) 溝の口「オンライン源氏の会」(第41回・通算182回)

師走の声を聞くと、いっそう時の流れが速くなる気が
します。まだ何も出来ていない、そんな焦りが募る、
一年で一番しんどい時期の到来です。

オンライン「源氏の会」は、本年最後の例会となりました。
講読箇所は11/10、11/27のクラスと同じところです。

第50帖「東屋」の2回目。登場人物が三人だけの場面で、
11/10は「左近の少将の結婚観」を(⇒こちらから)、
11/27は「達者な仲人口」を(⇒こちらから)取り上げました
ので、今日は三人目の浮舟の継父・常陸の介を紹介する
ことになります。

仲人から、少将が浮舟に熱心に求婚していたのも、実は
花嫁の父が、この上なく頼り甲斐のある常陸の介だから
であり、それ故に浮舟が実子でないと分かった今、実子
のほうを望んでいるのだと告げられて、常陸の介は、格上
の少将が、自分を後見人として求めていることを誇りに
感じます。何といっても豊かな財力は、常陸の介の強味
です。

一方で仲人は、来年は四位に昇進する、蔵人の頭に
任命される、帝が自ら「早く結婚して、然るべき後見人を
持ちなさい。私がいるからには、すぐにでも上達部にして
やろう」と仰っている、と、ありもしない話して、少将のこと
を持ち上げました。中央政界のことがわかっている者なら、
このような出まかせの話を信じるわけはないのですが、
常陸の介は長年国司として地方で生活をしていたので、
仲人の嘘を見抜くことが出来ず、真に受けてしまったの
でした。その辺りが常陸の介の弱味だったのでしょうね。

格下でも良いから、妻の実家に優遇してもらいたいと願う
左近の少将。格上の将来有望な婿を迎えて、その婿の
出世を財力で後押ししたいと願う常陸の介。この二人を
言葉巧みに結び付けた仲人。三人三様でありながら、
これ迄の『源氏物語』の世界にはけっして描かれることの
なかった、俗っぽい、しかしながら生身の人間の息遣いが
感じられる人たちではないかと思われます。

常陸の介は「うち笑みつつ聞きゐたり」(にんまりとして
聞いていた)。少将も「うち笑みて聞きゐたまへり」
(にんまりとしてお聞きになっていた)。作者は、互いの
満足感を同じ言葉で表現しています。違いは少将には
「たまふ」という尊敬語が用いられていることです。
こうしたところに、二人の身分差が歴然と示されている
のがわかりますね。


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コメント

No title

宇治十帖は、「登場人物の心理描写がこまやかで、まるで近代小説のようだ。」と評されます。
作者自身が、いわゆる受領階級、中の品に属する人物だったから。今まで、そう単簡に理解してきました。でも、最近ちょっと考えが変わってきました。
物語が生まれた舞台と、読み手の問題です。
いくら「小説」とは言え、読まれるものである以上、読み手を意識するのは当然のこと。増して、単なる「つくりごと」とは言えないからこそ、書かれたそばから高い人気を得た「源氏物語」です。その作中、最高級な身分の登場人物の俗っぽさを徹底的に描くことは躊躇われたのではないかと。その点、中の品の人々に対しては、遠慮なく筆を走らせることができます。
後宮の女房たち、雲上人である貴族たちも、「まあ、下品な」「これだからしもざまの者は」と、物語世界に抵抗なく入ってゆき、読み進めたに違いありません。
自分の作品に引き込まれ、うち興じる彼らを見る作者の頬には、皮肉な笑みが浮かんでいたのか。それとも、無意識に、作者の内にも、身分による人間性差別意識も植えつけられていたのか。想像してみるのも一興です。むらさき様は、いかが思われますか?

No title

吹木 文音 さま

コメントを有難うございます。

「宇治十帖」は、第二部までの「光源氏の物語」に比べると、近代の心理小説を読んでいるような気分になるのは確かですね。

それにしても、この「東屋」の常陸の介邸を舞台にした場面は、当時の大衆小説とも言えそうな感じがします。純文学の中に入り込んだ大衆文学の部分。受領階級に属する紫式部が、なぜ受領層を笑いの対象としたのか、様々な意見があろうかと思いますが、「宿木」での読者も息が詰まりそうになる上流貴族社会の有り様を延々と描いた後、その空気を打破する笑いを誘うような場面の挿入を、と考えた時、登場人物を中の品以下にして、肩の力を抜いて読める設定にしたのではないでしょうか。おっしゃる通り、登場人物を高貴な方には設定出来ませんし、作者は中級貴族社会のこともよく分かっていたので、リアルに面白く描けたのではないかと思われます(いずれも勝手な想像ですが)。

浮舟の母・中将の君は、上級貴族社会、受領社会、どちらも知っている人ですが、作者もまた同様で、だからこそまた、そこに存在する隔たりの大きさもわかっていたのだと思います。

No title

丁寧にご指導いただき、ありがとうございます。
むらさき様のご講義を聴いていると、紫式部がむらさき様のすぐ向こうの几帳の内にいる錯覚を覚えます。口伝えに解説して下さっているような。わくわく致します。
上級貴族社会と受領社会、どちらも知っている作者ならではの観察眼。そして、紫式部の、類い希な小説家としての構成力が、1000年余りの時を経て、尚、私たちを魅了して止まないのですね。

No title

吹木 文音 さま

再度のコメントを有難うございます。

根拠を挙げてお答えするのが本来のあり方なのでしょうが、私の場合は想像の域を出ないことが多く、申し訳ありません🙇

研究姿勢としてはこれでは不味いのですが、愛読姿勢としてなら許されるかと思っています(;^_^A

こんなブログですが、これからもよろしくお願いいたします。

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