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第二帖「帚木」の巻・全文訳(3)

2016年11月14日(月) 溝の口「紫の会・月曜クラス」(第8回・№2)

本日読みました「帚木」の巻(53頁・3行目~61頁・14行目まで)の
前半に当たる部分(53頁・3行目~56頁・14行目)の全文訳です。
(頁・行数は、「新潮日本古典集成本」による。)

様々な女性のことを話し合っているうちに、「通りいっぺんの恋人
として付き合うには問題なくても、自分の妻として信頼できる女を
選ぶとなると、沢山いる女の中でも、なかなか決めかねるものです。

男が朝廷にお仕えするにあたっては、しっかりとした天下の柱石と
なる人物と言えども、本当の政治家としての器に値する者を挙げる
となると、難しいでしょうよ。でも、いくら際立った人物だとしても、
一人や二人で天下の政治を治めて行けるものではないので、
上の者は下の者に助けられ、下の者は上の者に従って、
多岐に渡る事も融通を付け合ってこなしているのでしょう。

それに比べると、狭い家庭内の主婦とすべき人一人のことを
考えてみますと、不十分では困る大切な事々が、あれこれと
多いものです。一長一短で、まあ人並みでどうにかこれなら、
という女が少ないので、浮気っぽい遊び半分の気持ちで、
大勢の女を比較してみようという趣味はありませんが、
この女こそ生涯の伴侶にしたいと思う程に、同じ事なら自分が
力をいれて、直してやらねばならぬような所がなく、気に入る
人と結婚できないものかと、選び始めると、なかなか決め難い
ということなのでしょう。必ずしも自分の好みのタイプでなくても、
夫婦になった縁だけを大事にして女と一緒にいる男は、傍から
見れば誠実な男に見えるし、そうして捨てられずにいる女も、
取り柄があるのだろうと思われがちです。

ですが、いやまあ、世間の夫婦の様子を数多く見てまいりますと、
想像もつかない程、結構に思える例はありませんね。お二人の
ような名門のご子息方のこの上ない女性のお選びには、ましてや、
どんな方ならお似合いでしょうか。

見た目もそこそこで、若い年頃の女が、自分自身では塵も付かない
ようにと振舞い、手紙を書いても、おっとりと言葉を選び、墨付きも
薄くて、男にじれったく思わせ、もう一度はっきりと姿をみたいと
男をやきもきさせながら待たせて、かすかな声が聞けるほどまで
近しい仲になっても、息づかいの下に消えてしまいそうな声を
呑み込んで、言葉が少ないのがたいそうよく欠点を隠すものなの
です。なよやかで女らしいと見ていると、風情ばかりに捉われすぎて、
ややもすればあだっぽくなってしまう。これを女の第一の難点と
すべきでしょう。

家刀自としての仕事の中でもいい加減には出来ない夫の世話と
いうものは、情趣を重んじ過ぎて、ちょっとしたこともしゃれており、
趣味的なことにばかりたしなみがあるような面は、なくてもよかろう
と思われもしますが、しかしまた家事一点張りで、額髪をすぐに耳に
挟んで、なりふり構わぬ世話女房型で、ただもう所帯じみた世話に
ばかりにかまけていて、夫が朝夕の出入りをするにつけても、公私に
わたる人々の振る舞いや、善きにつけ悪しきにつけ見聞きした出来事を、
親しくもない人にわざわざ話して聞かせたりはしないものでしょう。
身近にいる妻で、話を理解してくれる人と語り合いたいものだと、
自然と笑いが込み上げてきたり、涙ぐまれたり、むやみに義憤を覚えて、
自分の胸一つに納めきれないような多くの事があっても、この人に話しても
どうせわかりはしないだろうと思うと、ついそっぽ向くことになってしまい、
こっそりと思い出し笑いなどもして、「あーあ」などと独り言も出て来てしまう
のですが、妻が「何ですの?」などと間の抜けた顔で夫を見上げているなんて
いうのは、まったくお話になりません。

ただもう子供っぽくて、素直な女を、何かと教育し妻にするのがよさそうです。
頼りなくても、仕込み甲斐がある気がいたしましょう。ただ、その女の家で
一緒に居る分には、そのようなかわいらしさに免じて欠点も見逃せましょうが、
傍にいない時に、必要な用事を頼んだり、何か事がある時にしでかすことが、
それが趣味的なことでも、実用的なことでも、自分で判断ができず、しっかりと
した配慮がないのは、とても残念で、頼りないという欠点が、やはり困ったこと
でしょう。いつもは少しよそよそしく、好感の持てない人が、何かの折に「おやっ」
と思われる見栄えのすることもあるものです。」など、至らぬところのない論客の
左馬頭も、結論を出しかねて、大きなため息をついておりました。

「今はもう、家柄の良し悪しなど問題にしますまい、容貌なんか尚更です。
どうしようもなく性格がひねくれていなければ、ただ一途に実直で、
落ち着いた性格の妻を、生涯の伴侶、と考えて置くしか他ありません。
それ以上の教養や気の利く点が備わっていたなら、それは「儲け」だと
思って、少し位至らない点があっても、無理にそれ以上は要求しますまい。
安心できるゆったりとした性格さえ確かならば、女らしい風情はそのうち
自然に身に付いてくるものですからね。


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