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もうひとつの動機

2016年11月20日(日) 淵野辺「五十四帖の会」(第131回)

「宇治十帖」に入って2帖目、「源氏物語」全体では46帖目にあたる
「椎本」の巻も、このクラスは終わりに近づいて来ました。次回は
残り少しを読み終えて、第47帖「総角」の巻に進む予定です。

薫は幼い頃から、自分の出生の秘密に何となく気づいていて、
それが彼の厭世観にもつながっているのですが、薫にはっきりと
事実を告げたのは、八の宮家に仕えている「弁」という女房でした。

弁は、亡き柏木(薫の実父)の乳母の娘で、柏木も、弁には女三宮
への思いも打ち明けていました。柏木の最期には、女三宮と遣り取り
をした手紙も託されていたので、ずっと薫にこの形見を渡したいと
思い続けていたのでした。

弁は夫となった男と共に薩摩の国に下り、10年余りを過ごしたのち、
京に戻って、八の宮の北の方の従姉妹という縁から、八の宮邸に
仕えておりました。

偶然にも、八の宮の生き方に心惹かれた薫が、宇治へと通って来る
ようになり、ようやく弁は薫に事の真相を伝え、柏木から預かった手紙も
渡すことが出来たのでした。

以後、薫は弁に対しても、優しい心遣いをして接しているのですが、
気掛かりなのは、弁が薫の出生にまつわる秘密を宇治の姫君たちに
漏らしてしまっているのではないかということでした。

弁もさすがに、母親が柏木の乳母を務めただけあって、他人に言って
よいことといけないこととは、きちんとわきまえており、大君にも中の君
一言も漏らすことはなく、自分一人の胸にしっかりと収めていましたが、
薫は、姫君たちのお世話係として、日夜お側近くにお仕えしている身
であれば、年寄りはすぐに問わず語りもしてしまうから、相手構わず
言いふらすことはなくても、姫君たちにはきっと話してしまっているに
違いないと、推測したのです。

自分の弱味を姫君たちに握られている、と思うと、「またもて離れては
やまじと、思ひ寄らるるつまにもなりぬべき」(これがまた姫君たちを
我がものにせずには置くまい、と考えるきっかけとなりそうでした)
と、作者が草子地で記しています。

薫は姫君との結婚を願う動機の一つとして、「自分の出生の秘密を守る
ためだ」と、自らの言動を合理化、正当しているわけですが、浮舟の死
(実際には死んではいないのですが)を知った時も、「仏がぐずぐずと
出家しないでいる自分に道心を起こさせようとして、こんな辛い目に
合わせなさるのだ」と、やはり、浮舟の死を合理化、正当化しようとして
います。

一種のエゴイズムの現れとも言えるこの薫の独特の考え方ですが、
薫の中に潜む鬱屈した心理の源をたどってみると、同情の余地も
見えて来るような気がします。


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