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老いの悲しさ

2017年8月28日(月) 溝の口「湖月会」(第110回)


先週の猛暑の戻りも落ち着いて、夜になると秋虫の声が聞こえて来るように

なりました。


このクラスは第2金曜日(8月11日)のクラスと同じ所を読みました。


女三宮の懐妊が、柏木との密通によるものであることを源氏に知られて、

恐れおののく柏木と女三宮。女三宮は、悪阻に精神的ショックも加わり、

体調は悪くなるばかりです。


そんな女三宮の様子を耳になさって心配でならないのが、父の朱雀院です。

もう、出家しておられるのですから、俗世のことにはかかわってはならない

身なのですが、やはり女三宮のことだけは気がかりで、お手紙がまいります。


ちょうど源氏が女三宮のところにおいでになっている時だったので、源氏も

そのお手紙をご覧になります。お返事を書くよう促しながら、女三宮を

諄々と諭す源氏の言葉の中には、棘と悲しみが綯い交ぜになっておりました。


ここは、誰にも打ち明けることの出来ない秘密を一人胸の内に納めておか

なければならない源氏の屈折した思いと共に、老いの悲しさを感じさせる

場面でもあります。


源氏はやや自虐的に自分の老いを語ります。「今はこよなくさだ過ぎにたる

ありさま」(いまはもうすっかり年をとってしまった私の様子)、「古人の

さかしら」(年寄りのおせっかい)、「いかにうたての翁や」(ああ、なんて

嫌なじいさんだ)と。


老いは生きている限り、すべての人に平等に訪れ、それはスーパーヒーローの

源氏でさえ、例外ではないのです。若い柏木への嫉妬も、老いを自覚せざるを

得ないがゆえのものでありましょう。


若き日に密通を犯した源氏が、30年近い歳月を経て、今度は密通される側に

立たされているという事実。やりきれない運命の循環です。


読者をも巻き込んで、息苦しくも迫力ある展開を見せた「若菜下」の巻も、

いよいよ次回で読了の予定です。



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コメント

No title

おはようございます

昼間はまだ蒸し暑さは続いているものの、朝夕は涼しい風が吹くようになってきました

昨日の回は、女三宮、柏木、源氏、それぞれの心理が描かれていて、読み応えのありました   もちろん、先生の解説のお陰ですが(笑)

女三宮の幼い子供のような恐がり方は、いかにもという感じで、哀れにも思います
柏木も、体を壊すまで思い悩むのなら、どうしてあんな手紙を小侍従に届けさせたのだろうと不思議ですし   先生がおっしゃったように、それが恋は理性を失わせるということでしょうか
源氏の、非常に複雑な心境は、若い頃読んでいた時には全く理解できないことでした   先生のお話で、納得致しました
源氏ですら、年を取ることには抗えない   いつのまにか、恋の主人公からは引退していたのですね   長い間お相手だった朧月夜も、出家してしまいます

自身の過失とはいえ、哀れだった女三宮のその後や、対照的に賢く生きてきた玉蔓の、その後のお話も興味深いです
人生は終わるまでどうなるかわからないというのは、この年になって、思い当たることが多いですから

源氏が、面やつれした女性が好みというのは、もちろん美女限定ですね(笑)

   







No title

ば~ばむらさきさま。こちらでも3日ほど前から虫の音が聞こえるようになりました。先日「大和物語」を読み終えて、今フリー。移動の折や手持ち無沙汰のときお世話になる、田辺聖子氏の「源氏紙風船」「文車日記」をぱらぱらめくりながら読んでおります。聖子さんの古典の造詣と愛着は深く熱く、それこそ舌なめずりするような描きぶりにこちらまで興奮してしまいます。28日の先生のブログを拝見して、やはり同じような印象を受けました。精緻な心理サスペンスみたいで面白いですね。かく言う私が通読できたのは与謝野晶子訳のみ。ただ筋を追っただけでした。ところで、これから何を読もうか思案しております。いきなり「平家物語」に飛んでしまうのもなんだし、「源氏」の挑戦するのも力不足だし…。何かいいお知恵はありませんでしょうか? 夫さまの古希、おめでとうございます。私も息子3人、お嫁さんはありがたいものだと思います。

No title

夕鶴さま

いつも講座の補足をして頂いているようなコメントを、有難うございます。

私も若い頃はこの場面に対して、「老いの悲しさ」を実感することなどなく、読んでおりましたが、今、人生の黄昏時に入って来て、この時の源氏の気持ちも理解できるようになりました。30代(おそらく)の紫式部が、このような老いの心理を、読者を唸らせる筆力で描写していることが、驚嘆に値しますよね。恐るべし紫式部!!

このずしーんと重い雰囲気は、次の「柏木」まで続いて行きますが、それだけに読み応えもありますね。引き続き、よろしくお願いいたします。


No title

萩原さま

弱まりゆく蝉の声、活気づく秋虫の声。季節の移ろいを感じさせられますね。

嬉しいコメントを有難うございます。

「大和物語」も読み終えられて、もう中古のものはすべて読破されたようですが、
「源氏物語」が残っているなら、やはりここはぜひ「源氏物語」に挑戦してくださいませ。萩原さまのスピードと読解力を持ってすれば、1年も経たないうちに五十四帖を読んでしまわれるのではないでしょうか。「源氏物語」には、他の中古文学には無い、原文から香り立つ情趣が感じられますので(講読会にご参加の方々も、よくそうおっしゃっています)、それを味わって頂きたいと思います。先輩に向かって偉そうなことを言って申し訳ありません。

また「ばーばむらさき」のブログにお立ち寄りくださって、コメントが戴けるのを楽しみに待っております。

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