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第8帖「花宴」の全文訳(4)

2019年7月8日(月) 溝の口「紫の会・月曜クラス」(第40回・№1)

先月少し残ってしまった第7帖「花宴」、本日前半で読み終えて、
後半は次の「葵」に入るつもりだったのですが、「花宴」の最後で
「大澤本」のことなどに触れていたため、「葵」は本文講読に入れ
ないまま、アウトラインの説明をしただけで、終了時間となりました。

よって、今回の全文訳は、本日読んだ「花宴」(57頁・9行目~62頁
・4行目)のうち、前半分の57頁・9行目~60頁・1行目となります。
いつもよりかなり短目です。残りは7/25(木)に書きます。
(頁・行数は、「新潮日本古典集成本」による)


左大臣邸では、葵の上はいつものように、すぐにはご対面になりません。
源氏の君は所在なくあれこれと思い巡らされて、筝の琴を手すさびに
弾きながら、「やはらかに寝る夜はなくて(うちとけて寝る夜もなくて)」と、
お歌いになります。

左大臣がこちらにお出でになって、先日の花の宴の趣深かったことを
申し上げなさいます。「この歳になって、これまで聖天子の御代の四代に
お仕えして参りましたが、この度のように、漢詩文が優れていて、舞や楽、
すべてのものの音なども整っていて、寿命が延びる思いをしたことは
ございません。それぞれ専門の道の名人が多いこの頃ですが、それを
あなたが詳しく承知して、万全の準備をなさったからでございます。
この翁もつい舞い出してしまいそうな気分になりました」と、申し上げ
なさいますと、源氏の君は「特別に準備をして行ったこともございません。
ただお役目として、すぐれたその道の専門家たちを、あちらこちらに
捜したまでのことなのです。すべての事よりは、頭中将の「柳花苑」が、
実に後世にまで残る典例ともなりそうだと拝見しましたが、ましてや
栄え行く御代の春に、左大臣ご自身が舞い出されたなら、当代の面目
でございましたでしょうに」と申し上げなさるのでした。

左大臣のご子息の左中弁や頭中将が来合わせて、高欄に背をもたせ
ながら、思い思いに楽器の調子を合わせて合奏して居られるのは、
とても趣がございました。

あの有明の君(朧月夜)は、源氏の君とのはかなかった夢のような
逢瀬を思い出されて、ぼんやりと物思いに耽っていらっしゃいます。
右大臣が東宮のもとに四月頃に入内させるとお決めになったので、
たいそう辛く思い乱れておられるのを、源氏の君も、お捜しになるのに
当てがないわけではないけれど、どの姫君だと分からないまま、
とりわけ自分をお認めにならないご一家にかかわり合うのも体裁が悪く、
思いあぐねておられたところ、三月の二十日過ぎ、右大臣邸の弓の
競射会に、上達部や親王たちを大勢お集めになって、そのまま藤の花
の宴を催されました。

桜の花盛りは過ぎていましたが、「他の桜が散ったあとに咲け」と、
教えられたのでありましょうか、遅れて咲いている二本の桜がとても
綺麗でございました。

新しくお造りになった御殿を内親王たちの御裳着の日に美しく飾り付け
られたのでした。派手好きでいらっしゃる右大臣家の家風で、何事をも
派手で現代風にしておられます。

右大臣は源氏の君にも、先日、宮中でお会いになった時に、お誘い申し
上げなさいましたが、お出でにならないので、残念で、催し栄えもしない、
と思われて、ご子息の四位の少将をお迎えに差し向けられました。

「わが宿の花しなべての色ならば何かはさらに君を待たまし(我が家の
藤の花が並みの美しさならどうして殊更あなたをお待ちいたしましょうか)」

源氏の君は宮中におられる時だったので、この右大臣からのお手紙を
父帝にお見せなさいました。帝は「得意顔だね」と、お笑いになって、
「わざわざのお迎えのようだから、早く行くがよい。内親王たちも育って
いる邸だから、そなたを全くの他人だとも思っていないだろうに」などと
おっしゃいます。源氏の君は身なりを念入りにお整えになって、すっかり
日が暮れる頃、右大臣に散々待ち遠しい思いをさせて、お出かけになり
ました。


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