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第8帖「花宴」の全文訳(5)

2019年7月25日(木) 溝の口「紫の会・木曜クラス」(第40回・№1)

第2月曜日のクラス同様、こちらも今日で第8帖「花宴」を読み終えました。
本日読んだ「花宴」(57頁・9行目~62頁・4行目)のうちの前半部分は、
7月8日の➞「花宴」の全文訳(4)をご覧ください。こちらは後半部分
(60頁・2行目~62頁・4行目)の全部訳となります。

(頁・行数は、「新潮日本古典集成本」による)


桜襲の唐の綺の直衣で、葡萄染の下襲の裾をたいそう長く引いて、
他の人は皆袍をお召しなのに、源氏の君は洒落た皇子らしいお姿で、
かしづかれてお入りになるご様子は、なるほどたいそう際立って
おられました。藤の花の美しさもこの源氏の君のお姿に気圧されて、
却って興ざめに感じられました。

管弦の遊びなどをまことに面白くなさって、夜が少し更けて行く頃、
源氏の君はひどく悪酔いしたように見せかけなさって、それとなく
席をお立ちになりました。寝殿に弘徽殿の女御腹の女一宮と
女三宮がいらっしゃいます。源氏の君は東南の隅の妻戸口に
いらして、長押に寄りかかってお座りになっていました。藤の花は
寝殿の東南の角にあるので、格子なども皆上げてあり、御簾際に
女房たちが出ていました。袖口などを、踏歌の時のような感じで、
わざとらしく押し出しているのも、不似合いだと、先ず藤壺辺りの
奥ゆかしさが思い出されます。

源氏の君が「気分が悪いところにひどくお酒を無理強いされて、
困っております。恐縮ですが、こちら様なら、私を物陰にでも隠して
下さるでしょう」と言って、妻戸口の御簾を引き被り、上半身をお入れ
になります。「あら、困りますわ。身分の低い者なら、高貴なご親戚を、
何かと口実を設けて頼って来ると申しますが」と言う女房の様子を
ご覧になると、重々しくはないけれど、平凡な若女房たちではなく、
上品で風情ある様子がはっきりと見て取れます。空薫物がたいそう
煙たくて、衣擦れの音も、殊更派手な感じに振舞って、奥ゆかしく
深みのある雰囲気は欠けていますが、当世風なことを好まれるお邸で、
尊い内親王方もご見物なさるというので、この戸口に座を設けて
おられるのでありましょう。

そのような振舞いはあってはならないことですが、源氏の君はさすがに
興味深く思われて、先夜の姫君はどの方であろう、と胸がときめいて、
「扇を取られて、からきめ(辛い目)を見る」と、わざとおっとりとした声で
言って、長押に寄りかかっていらっしゃいます。「妙に趣向を変えた高麗人
ですこと」と答えるのは、事情を知らない人でありましょう。

答えはせずに、ただ時々、ため息をつく気配のほうに寄って行って、
几帳越しに手を捉えて、

「あづさ弓いるさの山にまどふかなほの見し月のかげや見ゆると(月が
入るいるさの山のほとりでうろうろしていることですよ。いつぞやほのかに
見た月の影がまた見えるかと思いまして)なぜでしょうか」

と、あて推量でおっしゃると、こらえ切れないのでありましょう、
 
「心いるかたならませばゆみはりの月なき空にまよはましやは(お心が
強く惹かれるお方の所なら、たとえ月が出ていない闇夜でもお迷いに
なったりするでしょうか)」

と言う声は、まさにその人でした。たいそう嬉しいのですけれども・・・。
                                
                           第八帖「花宴」 了
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