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第9帖「葵」の全文訳(1)

2019年8月12日(月) 溝の口「紫の会・月曜クラス」(第41回・№1)

今月から第9帖「葵」に入りました。1回目の今日は、65頁・1行目~
69頁・10行目を読みましたので、その前半部分(65頁・1行目~67頁・
11行目迄)の全文訳です。残りの後半部分は8/22(木)に書きます。
(頁・行数は、「新潮日本古典集成本」による)

御代替わりがあって後、源氏の君はすべてのことが憂鬱に感じられて、
ご身分の尊さも加わったせいか、軽々しいお忍び歩きも憚られ、あちら
こちらの女君が待ち遠しさの嘆きを募らせていらっしゃる、その報いで
ありましょうか、相変わらずつれない藤壺のお心を、ただもう果てしなく
思い嘆いておられました。

桐壺帝が御譲位なさってからは、藤壺は以前にも増して始終、桐壺院と
まるで臣下のご夫婦のように、ご一緒においでになるのを、新たに皇太后
になられた弘徽殿の女御は、不快にお思いになっておられるのか、宮中に
ばかりお控えになっているので、藤壺は院の寵愛を競う人も無く、気楽な
ご様子です。

桐壺院は機会があるごとに、管弦の遊びなどを、趣向を凝らして、世間の
評判になる程盛大に催されて、ご在位中よりも却って退位後の今のご様子
のほうが素晴らしくお見えになるのでした。ただ、宮中におられる東宮の
ことを、たいそう恋しく思い申し上げていらっしゃいました。東宮には後見役
がいないのを、気掛りにお思いになって、源氏の君に万事ご依頼なさるに
つけても、源氏の君は、気の咎める思いはするものの、嬉しいとお思いで
ありました。

そうそう、そう言えば、あの六条御息所がお産みになった、亡くなられた
東宮の姫君が、斎宮にお決まりになりました。源氏の君のお心も、とても
頼りには出来そうもないので、姫君の幼いご様子の気掛かりさに託けて、
伊勢に下向してしまおうか、と御息所は予てよりお思いになっておりました。

桐壺院も二人の仲をお耳になさって、「亡き東宮がとても大事にして寵愛
しておられたのに、軽々しく普通の女と同じように扱っているというのが
気の毒だ。斎宮のことも、私の皇女たちと同列に考えているので、どちらに
つけても、御息所を疎略に扱わないのがよかろう。気の向くに任せて、
このような好色めいたことをする者は、ひどく世間の非難を受けることに
なりかねない」などと、ご機嫌が悪いので、源氏の君も我ながら、仰せの
通りだ、と納得されることなので、恐縮の体でお控えになっておりました。

さらに院が、「相手の女性に恥をかかせるようなことをせず、誰に対しても
穏やかに接して、女の怨みを買ったりするではないぞ」と、おっしゃるに
つけても、もしも院が、自分の藤壺に対する大それた思慕の情を聞きつけ
られた時には、いったいどうなることかと、恐ろしいので、身も縮まる思いで
退出なさいました。
 
またこのように、桐壺院のお耳にも入り、ご注意を仰せになるにつけても、
御息所のご体面上も、自身のためにも、いかにも色めいていて心苦しい
ので、いっそう捨てておけず、申し訳ないこととはお思いになるものの、
源氏の君は、まだ表立っては、きちんとした妻としての扱いをして差し上げ
ないのでした。

御息所も不釣り合いなお歳の違いに引け目をお感じになって、気を許さない
様子なので、源氏の君はそれに遠慮しているような態度を取っておられます。
桐壺院のお耳にも入り、世間の人にも知れ渡ってしまっているのに、さほど
深いとも思えない源氏の君のお心のつれなさを、御息所はひどく思い嘆いて
おられました。

こうした御息所の噂をお聞きになるにつけても、朝顔の姫君は、何としても
御息所の二の舞は踏むまい、と固く決心なさって、これまではくださっていた、
お便りに対する形ばかりのお返事も、今はほとんどございません。かと言って、
すげなく、相手に気まずい思いをさせるようなあしらいはなさらぬご様子を、
源氏の君も、やはりこの方は他の女性とは違っている、と思い続けて
いらっしゃるのでした。


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