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物の怪の正体

2019年11月11日(月) 溝の口「紫の会・月曜クラス」(第44回・№2)

先程の全文訳のところでも書きましたが、今回読みました箇所が、
第9帖「葵」のクライマックスです。

名だたる験者が祈祷しても、決して憑坐(よりまし)に駆り移されず、
葵の上に憑りついたまま離れることのない物の怪が、ついに正体を
現します。

「少し祈祷をゆるめてください。源氏の君にお話したいことがあります」
と、葵の上の口を借りて願い出た物の怪。女房たちは、源氏を葵の上
の傍らに招じ入れました。

普段の冷たい雰囲気は無く、とても辛くてだるそうな眼差しでじっと源氏
を見つめ、涙を流す葵の上。源氏は、これはご両親や自分との今生の
別れを惜しんでおられるのか、と思い、葵の上を慰めますが、返って来た
言葉は、意外なものでした。「しばらく祈祷を止めて私を楽にしてください、
とお願いしようと思いまして。葵の上に憑りつこうだなんて少しも思っては
いないのに、物思いをしていると、本当に魂は我が身からさまよい出て
しまうのだったのですね」と、源氏に親し気に話しかけ歌を詠むのでした。

「嘆きわび空に乱るるわが魂を結びとどめよしたがひのつま」(嘆き悲しみ、
空にさまよっている私の魂を、あなたが繋ぎとめてください、下前の褄を
結んで)

その声、雰囲気が葵の上ではなく、まさしく六条御息所であることに、
源氏は激しく動揺します。

「かくのたまへど、誰とこそ知らね。たしかにのたまへ」(そうおっしゃるが、
誰とも分からない。しかとお名乗りなさい)と、源氏が言うと、物の怪は
もう御息所に間違いない様子を見せたのでした。

この源氏の言葉には、心のどこかで御息所ではない、と答えてくれる祈り
にも似た気持ちが込められていたことと思われます。その期待を打ち
砕かれ、源氏は「あさましとは世の常なり」(呆れ果てた、などと言うのでは
ありきたりの表現になってしまう)ほどのショックを受けました。

源氏と話せたことで物の怪の声は静まり、葵の上は無事に男児(のちの夕霧)
を出産しました。

ここまでが本日の前半部分となります。詳しくは「第9帖「葵」の全文訳(7)」
お読みいただければ、と存じます。

後半は御息所が、自分が生霊となっていると気づき苦悩する姿と、源氏が
御息所を見舞おうかどうか、と迷う姿が、絶妙な心理描写で綴られている
場面からですが、そこは第4木曜日のクラスのほうで読んだ時に、ご紹介
いたしましょう。


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