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八の宮が死守したかったもの

2020年1月10日(金) 溝の口「源氏物語を読む会」(第139回)

このクラスも例年は、1月の講読会の日に新年会があるのですが、
今年はいつもの溝の口の会場「高津市民館」が、何かの都合で
本日使用不可。それで今月の例会会場が、武蔵小杉駅前にある
「中原市民館」となったため、新年会も2月に延期されました。

第46帖「椎本」に入って2回目、八の宮が薫と姫君たち(大君と中の君)
にちぐはぐな遺言を残す場面を中心に読みました。

八の宮は、薫には、「思ひ捨てぬものに数まへたまへ」(お見捨てに
ならない者の数に入れていただきたい〈=妻の一人として扱って
欲しい〉)と、言いました。薫が喜んで、「はい、では大君と結婚させて
いただきたいと思います」と答えてくれれば良かったのですが、薫から
の返事は、「決して疎かに思うことなどございません。私も出家を望む
頼りない身ですが、生きている限り、後見を務めさせていただきます」
という、積極性に欠けるものでした。

このブログでもしばしば触れて来ましたが、八の宮と薫は、互いに
「法の友」(仏法を介しての友)と思っておりますので、どちらも
結婚問題に今一歩、踏み込むことが出来ません。

八の宮は娘たちにはこう言います。「男の甘言に誘われて、この山里
を離れるようなことがあってはなりません。他人とは異なる運命のもと
に生まれたと思って、ここで生涯を終える覚悟をしなさい。世間から
非難されるようなみっともないことにならないのが一番なのです」と。

いくら婚期は過ぎている(大君25歳、中の君23歳)といっても、まだ若い
姫君たちには酷な言葉だと思われますが、八の宮は、「私だけでなく、
亡くなった母上のお顔に泥を塗るようなことをしてはいけません」、とも
言っています。

今はおちぶれているとはいえ、いやしくも宮家。娘たちが好色な男の
餌食となり、たとえ結婚したとしても、飽きられて捨てられた、とあっては、
恰好の「人笑へ(ひとわろえ)」(世間の物笑いの種)となってしまう。
高貴な家柄であればあるほど、スキャンダルのネタにもされ易い。
おちぶれているからこその、八の宮の強い思いだったとも言えましょう。

宮家としての矜持だけは何としても死守せねばならない。それがどんなに
娘たちにとって過酷なことだったとしても(八の宮だって、内心は美貌の
姉妹を、山里に埋もれさせるのは惜しいと思っていたのですから)。

このちぐはぐは遺言が、先々の薫と姫君たちの関係にどのような影響を
及ぼすことになるのか、もつれた閉塞感の中で繰り広げられる話が予感
させられますね。次回、八の宮は、物語の世界から消えて行きます。


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コメント

今年のお正月は、三が日通して晴れで温かで、お天気に恵まれた年の初めでした
今年一年も、こんな穏やかな年になってほしいものです

新春一回目の講読会は、「椎本」です
先生がお書きになっていた場面
厄年を迎え、死期を感じた八の宮は、薫に
娘の一人を妻にしてほしいと言います
以前にも、それとなく自分の死後は娘を頼むということを話していましたが、今回はより具体的です
薫は、「私の行きている限り志は変わりません」と答えます
なぜ「大君を妻にしたい」とはっきり言わなかったのでしょう
色めいたことは自分らしくないと思ったのでしょうか?
「法の友」というのは面倒ですね

そして、八の宮の娘達への遺言です
何もかも失った親王として、最後に残ったのは、「宮家としての矜持」ということは理解出来ますが
まだこれから先、長く生きていかなくてはならない姫君達にとってはあまりに厳しい言葉に思えます
何故一言、薫になら心を許してもいいと言わなかったのでしょう
読者としては、かなりイライラさせられますね
父宮の言葉を絶対に守り通そうとするであろう大君のことを考えると、今後薫との関係が上手くいくわけもなく、残念で仕方ありません
でも、こうやって悲しい物語が始まるのですね
次回も楽しみにしております♡

No title

夕鶴さま

いつもコメントを有難うございます。

昨日のポイントを的確にまとめていただき、私もなるほど、と納得しております。皆さまにも読んでいただきたいですね。

この冬の最高気温は10度を切ることがほとんどなく、やはり暖冬なのでしょうか。それでも寒中です。気をつけてお過ごしくださいませ。

来月は新年会(遅めではありますが)、美味しいお食事や、皆さまとの歓談が楽しみです。よろしくお願いいたします。


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