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第9帖「葵」の全文訳(16)

2020年8月17日(月) オンライン「紫の会・月曜クラス」(第1回・通算48回・№1)

本日より開始の「オンライン紫の会」、114頁・12行目~120頁・13行目までを
読みました。その前半部分(114頁・12行目~117頁・14行目)の全文訳です。
後半は8/27(木)に書きます。
(頁・行数は、「新潮日本古典集成 源氏物語二」による)


若紫が、何事につけても理想的にすっかり成長なさって、とても素晴らしい、
とばかりお見えになるので、源氏の君は、もう夫婦の契りを結んでも
似つかわしくないことはない、と思い込まれて、結婚を匂わすことなどを、
折々話して気を引いてごらんになりますが、若紫は全くお分かりではない
ご様子でした。

源氏の君は暇に任せて、ただ西の対で若紫相手に、碁を打ったり、偏つぎ
などをしながら、一日をお過ごしになっているうちに、若紫の気性が、利発で
魅力があり、何でもない遊びをしていても、可愛らしい仕草をしてお見せに
なるので、男女の仲になることを考えていなかった年月こそ、ただそうした
可愛らしさばかりを感じていたけれど、もう我慢できなくなって、可哀想では
ありますが、どういうことだったのでしょうか、傍目にはその辺りの事情を
お見分け出来かねる間柄でいらっしゃったので、源氏の君は早くに起き
なさって、紫の上は一向にお起きにならない朝がございました。

女房たちが、「どうしてこんな風でいらっしゃるのかしら。ご気分がお悪いの
でしょうか」と、拝見して嘆いておりますと、源氏の君は東の対にお出でに
なるとのことで、硯箱を御帳台の中に差し入れて出て行かれました。

女房たちがいない間に、紫の上がやっと頭をもたげなさると、引き結んだ
手紙が枕元に置いてありました。何気なく開けてご覧になると、

 「あやなくも隔てけるかな夜をかさねさすがに馴れし夜の衣を」(訳もなく、
あなたと結ばれることもなく、隔てを置いた夜を重ねて着たことです。そうは
言うものの、今まで幾夜も一緒に夜の衣を共にした仲ですのに)

と、筆に任せて書き流されたような文でした。源氏の君にこんなことをなさる
お心があろうとは、思いも寄らなかったことだけに、紫の上は、どうしてこんな
いやらしいお心を、疑いもせず、心底お頼りする気になっていたのであろう、
と、とてもあきれたことにお思いでした。
 
源氏の君はお昼頃に西の対にお渡りになって、「お加減がお悪いそうですが、
どんなご気分ですか。今日は碁も打たないで、物足りないことだね」と言って、
覗きなさると、紫の上は、いっそうお召し物を引き被って横になっておられ
ました。女房たちは引き下がって控えているので、源氏の君は、紫の上の
側にお寄りになって、「どうしてこんなに気詰まりなお扱いをなさるのですか。
案外冷たいお方だったのですね。女房たちも、どんなに変だと思っている
でしょう」と言って、夜着をめくってご覧になると、紫の上は汗びっしょりで、
額髪もひどく濡れておりました。「おや、いけない。これはとても不吉なこと
ですよ」と言って、源氏の君は、あれこれとご機嫌をお取りになりますが、
紫の上は本当にひどいとお思いなので、一言のお返事もなさいません。
「よしよし。もう決してお目にかかりますまい。私はとってもきまりが悪いよ」
と、恨み言をおっしゃって、硯箱の蓋を開けてご覧になりましたが、返歌も
ないので、うぶなご様子だなぁ、と、可愛くご覧になって、源氏の君は、
一日中御帳台の中にお入りになりお慰めになりますが、ご機嫌が直らない
紫の上のご様子は、いっそう可愛らし気でありました。

その夜になって、邸内では、亥の子餅を紫の上に差し上げました。
源氏の君が喪に服しておられるので、大げさにはせず、西の対の紫の上
のところにだけ、しゃれた檜破籠程度にいれたものなどを、色とりどりに
して持参したのをご覧になって、源氏の君は、西の対の南面に惟光を
お呼びになって、「この餅を、こんなに沢山仰々しくはせずに、明日の暮に
こちらに持参せよ。今日は縁起の良くない日だからね」と、照れ笑いを
見せながらおっしゃいます。惟光は察しのいい男なので、すぐに事の
次第を理解しました。惟光は詳細を承ることもせず、「まことに、愛敬の
はじめは、吉日を選んで召し上がるべきでございます。それにしても、
子の子餅はいくつご用意すればよろしうございましょう」と、真面目な
顔で申すので、「この三分の一位でよかろうよ」と、源氏の君が
おっしゃると、惟光はすっかり呑み込んで、立ち去って行きました。
「物慣れた様子だなぁ」と、源氏の君はお思いでした。惟光は誰にも
相談せず、自分の手作りと言わんばかりに、自宅で用意したのでした。


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