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第9帖「葵」の全文訳(18)

2020年9月14日(月) オンライン「紫の会・月曜クラス」(第2回・通算49回・№1)

オンライン「紫の会」は、今月で2回目となりますが、ようやく第9帖「葵」を
読み終え、次の「賢木」の巻に少しだけ入りました。こちら(月曜クラス)で
「葵」の全文訳の残りを、24日の木曜クラスで「賢木」の全文訳を書きます。

「葵」の巻、120頁・14行目~123頁12行目迄の全文訳です。
(頁・行数は、「新潮日本古典集成 源氏物語二」による)


源氏の君は、紫の上のことを、今まで世間の人も、どこの誰とも存じ上げ
ないのはいかにも軽く見えそうなので、父宮(兵部卿の宮)にお知らせ
申し上げよう、とお思いになって、裳着のことを、人に広くはおっしゃい
ませんが、普通よりも立派に、とお考えになって準備なさるご配慮など、
とても有難いことですが、紫の上はこの上なく源氏の君を疎まれて、
「長年、全面的に源氏の君をお頼りして、いつもまつわりついていたのは、
我ながら呆れ果てるような気持ちだった」と、悔しさばかりが募って、
まともに目を合わせることもなさいません。

源氏の君が冗談をおっしゃっても、辛く迷惑なことと塞ぎ込まれて、以前
とはすっかり変わってしまわれた紫の上のご様子を、おかしくも、気の毒
にも思われて、源氏の君が、「長年大切に思ってまいりました私の真心も
通じず、打ち解けてくださらぬご様子の情けないこと」と、恨み申し上げて
おられるうちに、年も改まりました。

元日は、例年通り、院の御所に参上なさり、続いて帝、東宮の許にも拝賀
にお出でになりました。その足で源氏の君は左大臣邸へと向かわれました。

左大臣は新年であるにも拘らず、亡き葵の上のことなどをお口になさって、
もの寂しく悲しいとお思いになっているところに、いっそうその悲しみが増す
かのように源氏の君までがいらっしゃったので、じっと我慢しておいでですが、
堪え難くお思いになっておりました。

源氏の君は一つ御年が加わられたせいか、堂々たる風格までが加わられて、
以前よりも実に美しくお見えになります。左大臣とお会いになったお部屋を
出て、葵の上と過ごしたお部屋にお入りになると、女房たちも珍しく源氏の
君を拝見して涙をこらえることが出来ません。源氏の君が若君(夕霧)を
ご覧になると、すっかり大きくなってよくお笑いになるのも不憫に思われます。
目元や口の辺りがただ東宮とそっくりなので、人が見て不審に思うと困る、
と源氏の君は見ておられました。

お部屋の調度なども葵の上の生前と変わらず、衣桁に新調された装束など
が、例年と同じように掛けられているのに、そこに女物の装束が並んで掛け
てないのが、張り合いなく、物足りない思いがするのでした。

大宮からはお便りが届き、「元日の今日はたいそう我慢しているのですが、
このようにあなた様がお出で下さると、却って涙がこぼれてまいります」など
とお書きになっており、さらに「昔と変わらぬつもりでご用意しましたお召し物
も、この数ヶ月いっそう涙に目もふさがって、色合いもつまらなくご覧になろう
かと存じますが、せめて今日だけはやはりお召しになってくださいませ」、と
言って、たいそう心づくしの数々のお召し物を、さらにとり重ねて差し上げ
なさいました。

必ず今日お召しになるようにと、大宮がお思いになっている下襲は、色も
織り方も並々ではなく格別なのを、このお気持ちをどうして無駄に出来よう
か、と思い、源氏の君はお着替えになりました。もし今日こちらへ顔を出さ
なかったら、残念にお思いになったことだろう、と大宮のお気持ちがおいた
わしく感じられました。

お返事には、「春が来たのか」ということを、先ず私をご覧になることで知って
いただければと思い、参上いたしましたが、思い出されることが多くて、何も
申し上げることができません。

「あまた年今日あらためし色ごろもきては涙ぞふるここちする(これまで何年
もの間、元日は、お心づくしの美しい装束に着替えておりましたが、今日また
こちらに伺って着てみると、涙がこぼれ落ちて昔のことが思われます)とても
気持ちを静めることが出来ません」

と、申し上げなさいました。大宮からはつぎのような返歌が届きました。
 
「新しき年ともいはずふるものはふりぬる人の涙なりけり」(新しい年にも
かかわらず、降り注ぐのは年老いた親の涙でありますことよ)

どなたも、並一通りのお悲しみであろうはずもなかったのでございます。

                                  第九帖「葵」了

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